香港サッカー ロシアワールドカップに向けた2次予選大会

2015/09/21

2018年にロシアで開催されるワールドカップに向けて、アジアの各地で2次予選大会が開催されている。
香港代表は、組み分け抽選の結果2次予選のグループCに決まり、中国、カタール、モルディブ、ブータンと同組となった。このグループで首位に立つか、2位となり他グループの成績を上回った場合に、アジア最終予選に進出する事ができる。
最終予選に進出できるのは12ヶ国。グループCでは香港より格上の中国とカタールが首位を争い、両国の次に位置する香港が、首位を譲った方と勝ち点で並び、僅差での2位を確保した上で、他グループの成績次第では最終予選に進出できるかもしれない。と言った立ち位置である。
この2次予選の組み分けが発表された時点で、香港のサッカー関係者やファンの方々は、香港代表の実力がグループの3
番目だと認識していたはずだ。FIFAランクでは同水準のモルディブとブータンから確実に勝ち点を稼ぎ、格上の中国とカタールには喰らいつき、引き分けまたは最少失点差での負けを目指す。誰しもがそう思っていただろう。
現在、香港代表は格上の中国とカタールとグループの上位を争っている。実力的に中国とカタールは格上とは言え、即ちワールドカップ本大会に駒を進める程の最強勢力ではないからだ。
2次予選の4試合を消化した時点で、2勝1分1敗の勝ち点7。ホーム開催のブータン戦とモルディブ戦で、無失点での勝ち点6を稼ぎ、アウェー開催の中国戦では歴史的なスコアレスドロー。カタールをホームに迎えた4試合目も最少失点差での負け。得失点差で現在グループ3位ではあるが、これは上々の滑り出しと言える。
2次予選は残り4試合。香港代表のグループ2位の可能性はまだまだ十分にある。
香港代表は、韓国人の金判坤氏が指揮を執っている。金監督には韓国代表歴はないが、韓国での豊富な選手経験があり、現役生活の晩節は香港リーグでプレーし、この香港の地で現役選手生活を終えた人物である。
現役引退後は祖国韓国に戻り、プロチームでのアシスタントーチ時代に指導者ライセンスを取得。香港の名門南華(サウスチャイナ)での指導実績を積んだ後に、香港代表とU-23代表監督を兼任。2013年より香港代表専任で監督を務めている。
筆者も金監督とは度々顔を合わせていて、その気さくで温厚な人柄に触れさせて貰っている。総じて香港のサッカー関係者やファンの方々からの信任も厚く、今後の活躍が期待できる指導者だ。
そして香港代表のフィジカルコーチは、日本と韓国で豊富な指導実績のある池田誠剛氏が務めている。金監督からの強い要望により、香港代表スタッフに加わった池田コーチは、早くも香港代表選手たちのフィジカル管理に効果をもたらしている。
香港代表は、歴史的に外国人の帰化選手を重用してきた事は有名なお話だ。過去には旧宗主国である英国人の多くの選手が名を連ねていたが、その後はブラジル人やアフリカ人が主流となり、現在の代表選手の構成は、香港人が約半数、残りを大陸出者とアフリカ人、英国人、ドイツ系ハーフの選手が招集されている。
非華人系の選手が度々代表に名を連ねている事で、中国のメィアは予選での直接対決を前に、皮肉に満ちた表現を公にした。「中国香港には黄色も白も黒もいる」と。後に弁明のコメントも発せられたが、香港市民は敏感に反応した。
香港代表の国際試合では1997年の中国返還以降、国歌斉唱の際に中国国歌である「義勇軍行進曲」が斉唱されるようになった。これは香港人の抱く複雑な帰属意識に触れる事柄であり、スタンドで気持ち良く高らかに歌う人は皆無に近い。
ホーム開催の3試合すべてで「義勇軍行進曲」の斉唱中に大きなブーイングが起こり、これがFIFAルールに抵触する事で、香港サッカー協会に対して警告文書が届く騒ぎに発展している。今後改善が見られない場合は、ホーム開催時の無観客試合などのペナルティが課される可能性もあり、香港サッカー協会としても問題視している。
香港代表の国際試合には、普段の国内リーグの観戦客とは違う層の客も集まっている。これはどこの国でも同じような現象が起きていると思われるが、いわゆる純粋な競技のファン「じゃない面々」の事だ。この客層は競技を知らない上に、スタジアムでの観戦マナーも知らない。
旺角スタジアムでのカタール戦で、それを象徴するような出来事があった。
試合開始直前に、引率されたカタールの応援団が会場入りして、「じゃない面々」の目前を横切った時に心ないブーイングが発生したのだ。何に対してブーイングが起こったのか分からない「じゃない面々」が連鎖した為、カタールの皆さんはスタンドに向けて振っていた手と旗を下げたのだ。
そして、一団が香港代表のサポーターエリアに差し掛かった時に、今度はサポーターの面々からは大きな歓迎の拍手が起こり、それにカタールの皆さんが友好的に反応するという光景をの当たりにした。
何があったにせよ、自国の国歌に非礼なブーイングを被せてみたり、国際試合の対戦相手国のごく僅かな観客を歓迎できなかったりと、サッカー競技とは関係ない部分で自制が効かないのは、本当に残念な事だと思う。
低迷が続いていた香港代表が、もしかするとアジア最終予選に進出できるかもしれない。という局面を迎えているのだから、「じゃない面々」も自分たちの襟を正すべきだろう。11月17日に、香港代表のホーム開催で中国代表とのリターンマッチがある。この試合で最も重要なのは試合の結果であるが、筆者はスタンドの観衆の行動にも注目している。
≪つづく≫         文/池田宣雄(香港サッカー協会会員

AFCB

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