旬な人インタビュー!ピアニスト「藤本 志帆さん」

2022/09/07

葛藤を経験したから今がある
ピアノを楽しむことを選んだ
藤本 志帆さん

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中学校の音楽教諭の父とピアノ講師の母を持ち、1991年に北海道は札幌で生を享けた藤本志帆さん。京都市立芸術大学音楽部を卒業後、パリのエコール・ノルマル音楽院で2年間に渡る留学を経て日本へ帰国。その後は伴奏者、ピアノ講師として活動を開始し、2020年より香港へ移住後も、日本での経験を生かして、香港日本人合唱団の伴奏や、小中高校生を対象としたピアノ講師として幅広く活躍している。その若さからは想像もできない彼女の表現力と、今までの音楽活動の中で常に向き合ってきた葛藤をインタビューを通して紐解いていきたい。

「小さい頃から感性で生きてきた」と自身を表現するピアニストの藤本さん。生まれ故郷である札幌の地下鉄の路線を色で覚えたり、課題曲を色でイメージし、それに合う発表会用のドレスの色を自分で決めたりと、頭の中でイメージを浮かべることが得意な女の子だった。音楽一家の中で育った彼女は、2歳で音楽教室に通い始め5歳からピアノの鍵盤を叩くようになった。藤本さんは「幼少期から家にはピアノがあったので、ごく自然な流れでピアノを始めました」と当時を振り返る。

井の中の蛙だった自分を追い込んだ
そんな彼女が人生で初めてとも言える大きな壁に直面したのは、京都芸大入学後だった。周囲は高校から音楽科で学んできた学生ばかりで、札幌の進学校でピアノだけでなく勉強にも注力せねばならない環境で育った彼女には、周囲より出遅れているという焦りがいつも付きまとっていた。「もともと完璧主義なところがあり、自信がない分、当時は周囲の何十倍と練習をしようと自分を追い込みました」と藤本さん。彼女にとって大学の4年間は、自分の目の前の課題とレッスンをこなすのに心血を注いだ月日だった。
そんな折、大学時代の恩師の薦めもあり、もともとフランス音楽に興味があったことから、2年の月日を芸術の都、パリで過ごすことになる。「慣れない生活環境や言葉の壁に初めはパニックになりました。世界中から音楽家への夢を持った若者が一同に集まる室内楽のクラスでは、国によってそれぞれ演奏に対する姿勢が違い、今思うとあの時もっと気楽に音楽に向き合っていればよかったなと思います」と語る。だが、せっかく一流の環境に身を置いた自分を甘やかすことはなかった彼女。「ピアノを弾きたい」という気持ちはいつしか消え「弾かなきゃいけない」「遅れをとってはいけない」と自らの首を絞めてしまうことになる。

それでも辞められなかったピアノ
幼少の頃から通っていた音楽教室の厳しい指導のもと、幼い心の中には「ピアノを休みたい、逃げたい」気持ちが時折姿を現した。周囲と比較してしまう真面目な性格も手伝い、ネガティブな気持ちはいつしか蓄積され、フランスでそのコップの水が溢れ出してしまったそうだ。修了試験だけをなんとか終えて、逃げるように日本へ帰国した藤本さんだったが、幸運の女神は彼女を見捨ててはいなかった。音楽教諭の父親の紹介で徐々に中高の合唱部や、講習会での伴奏の仕事が増えていく中で、彼女はふとあることを思い出す。

もともと教師になりたかった
幼い頃から父の影響で教師になる夢も心の片隅に持っていた彼女は、音楽を通して子どもたちと触れ合い、ピアノの音を使って合唱やピアノ指導をすることで、いつしか凝り固まっていた心が脈を打って動き出すのを感じた。「第一線で活躍するピアニストにならなくても、自分にはこの生き方が合っている」と、フランスでのつらい経験がようやく少しずつ消化され、ピアノに向かう楽しさが蘇ってきたという。プライベートでは留学中に現在のご主人と出会い、結婚を機に彼の故郷である香港へ移住する運びとなった。

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天后にあるスタジオで水曜は女声、土曜は混声と男声が練習に励んでいる

香港日本人合唱団との出会い
香港の音楽教室でピアノ講師の仕事を始めて1年が経つ頃、縁があり香港日本人合唱団のコンサートを鑑賞する機会に恵まれた。その際、合唱団側ではちょうど前任者の退団に伴い新しい伴奏者を探していた時でもあり、藤本さんはそのバトンをしっかりと引き継ぐことに。
1960年代より活動を行ってきた同合唱団は、数ある邦人団体の中でも歴史ある団体だ。在籍数は約60名、普段の練習には40名ほどが仕事や家事の合間を縫って参加している。合唱や演奏の経験者は4割ほどで、楽譜が読めなくても気軽に入団でき、音楽を楽しむことをモットーに挙げている。同合唱団に参加して6年目を迎える団長の宮原さんはPPW読者へ「お腹から声を出す爽快感は最高ですよ。また、団員全員の声が調和し、奇跡のように美しいハーモニーが生まれた時の感動を一緒に体験してもらいたいと思います」とメッセージをくれた。さらに団長は伴奏者の藤本さんを「指揮者のどんな難しい要望にも、音や指の強弱を変え、巧みに対応できるすごいピアニスト」と絶賛する。
藤本さんは「感性で生きてきた私ですが、大学で出会った恩師が音の感じ方や表現の仕方を論理的に解釈する術を教えてくれました。身近な表現を用いて合唱団のみなさんへイメージをわかりやすくお伝えするのが私の使命であり、楽しみでもあります」と生き生きとした表情で語ってくれた。
同合唱団は、9月に湾仔で開催されるビッグイベント「秋のコンサート2022」※に向けて練習に励んでいる。コンサートでは映画『鬼滅の刃 無限列車編』のメドレーをオリジナルにアレンジし披露する予定だ。12曲に渡る曲目を通して、劇中のさまざまなシーンを彷彿とさせる団員たちの美しいハーモニーは一聴の価値あり。また、藤本さんのご主人もフルート奏者として共演を果たす。ソプラノ、アルト、テノール、バス、そしてピアノの伴奏が層を織りなしホールに響く様子をぜひ鑑賞しに出かけよう。3bbc4806-2d13-4f82-959a-3d77c2827041

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プライベートでも和気あいあいとハイキングなどに出かける団員たち

 


香港日本人合唱団「秋のコンサート2022」
日時:9月17日(土)15:00~入場無料(入場にはチケットが必要です)
場所:Methodist International Church, The Sanctuary Hall (1/F.)
チケットのご希望またはお問合せは
https://hkjcchoir.wordpress.com
jp.choir.hk@gmail.com
(マスク着用、検温、ワクチンパスの提示など政府の防疫措置に従ってご入場ください)

藤本先生 ピアノ教室
fujimotoshiho.piano@gmail.com

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