僕の香妻交際日記 第69回 3歳の娘が「さるかにがっせん」を読みたがる本当の理由

2022/01/12

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意地悪な猿はまだ熟していない硬い柿をかににめがけて次々と投げつけました。やがてかにの甲羅は破れ、かには死んでしまいました。そして、破れた甲羅の中から子がにが出てきて「母ちゃんの仇は必ず打つからな!」と泣きながらに強く誓いました。とは言っても子がにはまだ小さく自分一人ではとてもあの意地の悪い猿には太刀打ちできないので、うす、はち、栗、そしてうんちの4人に助けを求めたところ、4人は怒りを露わにしながら「よしいっちょ猿をこらしめてやろう」と快く子がにの依頼を引き受けました…

初めての子育ては要領が分からないので何かと大変である。特に香港の教育事情は1歳半から幼稚園受験の準備が始まるということで、我が家でも娘が1歳を過ぎた頃にはトイレの練習を始めたり、絵本を買い漁って読み聞かせを始めたりといろいろと試みたものであった。しかし、今振り返ってみるとなんと無茶なことを娘に要求していたものだと反省している。1歳半そこらでオムツが取れるわけもないし、ちゃんと座って絵本を読んだり聞いたりするなんてできるわけがないのだ。それでも妻と私はきっと周りの子どもたちはそういうことがすでにできるものだと思い込んでいたため、テレビばっかり見ていないで絵本を読みなさいと当時はしばしば厳しく娘に当たってしまった。

そんな娘も3歳になり幼稚園に通うようになると、おしっこやうんちも自分から進んでおまるを使うようになったし、就寝前にはたいてい自分から「これ読んで」と本棚から絵本を選んで持ってくるようになった。娘が1歳のときに買い漁った絵本たちは2年の月日を経てようやくその存在意義を発揮し始めたのだ。改めて子どもの成長とは不思議で素晴らしいものだと実感している今日この頃である。

ちなみに娘はインターの幼稚園に通っているので幼稚園では英語と普通語の教育しか受けておらず、日本語に触れられる瞬間は私との会話のときにほぼ限られているのだが、家でも日本語の歌や話を聞いたり、日本語の発音の練習をするのは好きではない。これまでもYouTubeでしまじろうを見せたり、日本語でディズニー映画を見せたりと試みたがどれも娘の反応はいまいちで、結局英語音声に落ち着くことが常であった。絵本も同様にディズニープリンセス、PJMASKSそしてセサミストリートの繰り返しで他の日本語の絵本にはあまり興味を示してこなかった。

それでも「教育は我慢だ」をモットーにしている私はあきらめず、根気強く色々な日本語の本を読み聞かせてきたところ、ようやく娘が興味を示す本を見つけることに成功した。それが冒頭に紹介した「さるかにがっせん」である。さるかにがっせんと言えば日本おとぎ話の定番の一つであるが、ディズニープリンセスとか韓国アイドルが好きな平成生まれの娘がなぜそんな昭和の色満載の日本のおとぎ話に興味を示したのか。みなさんにはもう一度冒頭の要約を読んで、娘がこのストーリーのどこに興味を持ったのか考えてみてほしい。

ポイントは2つ。1つはかにが殺されるシーン。絵本の中でも挿絵でかにが泡を吹きながら倒れている様子が描かれており、破れた甲羅から血が流れ出るところまで細かく描写されている。日常ではあまり見ない光景なので、なぜかには死んだのか、猿はなんてひどい奴なんだと娘も興味津々なわけである。そして2つ目のポイントは「うんち」がひどく怒っているという点である。うす、はち、栗が怒るのは百歩譲って理解できても、そこで4人目がなぜうんち(絵本では「うしのふん」として登場)!?この衝撃のキャスティングは娘の創造力の枠をも超越していたがため、今では毎晩うんちの怒っているシーンの挿絵を見ないと眠れないくらい虜になっている。

ちなみにこのうんち、蜂に刺されて家から慌てて飛び出してきた猿を見るや否や「待ってました!」と叫びながら猿の足元へ滑り込み横転させ、その後の臼によるとどめの一発に見事に貢献した。あれだけ日本語に抵抗のあった娘もうんちが活躍するこのシーンでは必ず「待ってました!うんち~!」と日本語で叫ぶのだから日本人の父としてはうんち様様である。一方で妻はうんちの活躍を称える娘の将来を若干不安視しているが…


ルーシー龍ルーシー龍(りゅう)

東京都出身。香港歴8年。世の中のオヤジの威厳を取り戻すため愛娘に甘い妻と日々衝突を繰り返しながら子育てに奮闘中。

 

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