僕の香妻交際日記 第66回 MARVELはなぜドニーではなくトニーを選んだのか

2021/10/06

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 先日、「日本人高卒ルーキーがなぜメジャーで成功しないのか」というよ
うな記事をヤフーニュースで見つけたのだが、その大きな理由として英語力と人間としての未熟さが関係しているのだろうと結論づけられていた。

 

 私が香港に来たのは25歳のときで、なぜ25歳で香港に来る決意をしたのかというと沢木耕太郎著「深夜特急」の付録対談で沢木が「海外に出るのに最も適した年齢は26歳だ」と話していたからという何とも単純な理由であった。ちなみにその沢木が最初に選んだ場所は香港だったので私もそれに乗じたというわけである。

 

 沢木が言っていたのは人間的な成熟度は海外生活を成功させるために欠かせないもので、だからと言って成熟しすぎる、つまり世の中のことを知りすぎることも海外生活への順応の邪魔になるので30歳では遅すぎるし20歳では早すぎるとのことで社会経験を3年積んだ26歳がベストだろうとという話であった気がする。

 そんな沢木の20年前の対談を読んで大いに感銘し、実際に25歳で来港した私だが、改めて自身の香港生活を振り返ってみると沢木の言ったことは正しかったと思うし、高卒ルーキーで海外に挑戦するというのはやはり人間的な面で難易度は高いだろう。

 

 一方で英語力についてだが、香港に来る前からそして来た後も私は「流ちょうな英語は海外生活に必要ない派」に属していたが、ちょっと最近その考えが不安定になってきた。

 そのきっかけとなったのがMARVEL最新作の「シャンチー」のキャスティングである。

 MARVELと言えばヒーローアクション映画製作の超巨大企業である。だからこそそこに抜擢される俳優や女優達も身体能力高めの人たちが勢ぞろいなので、当然今回のシャンチーには葉問(イップマン)でおなじみ、香港映画界が誇るアクションスターのドニーヤンが抜擢されると思っていた。しかし、蓋を開けてみればなんとシャンチーの親父役はトニーレオンではないか。

 トニーレオンも香港映画界を代表するスーパースターであることに違いはないが、どちらかと言うと柴田恭兵っぽい雰囲気があるのでMARVELというよりはあぶ刑事っぽい役がぴったるハマるというのが私の印象であった。

 とにかく、絶対にトニーよりドニーの方がシャンチーの親父役にハマるってことを誰かに言いたく、とりあえず横にいた妻に「なんでMARVELはトニーを選んだ!?」と聞くと「ドニーは背が小さいからよ」と一蹴された。だからってトニーもそんなに背は高くなかっただろうとGoogleで調べてみると…

トニーレオン 171㎝
ドニーヤン 173㎝

 ドニーの方が背が高いやんけ! というような雰囲気を出しながら「Donny is taller」と妻に問いただすと、妻が「ドニーは年なんじゃない?」と言い返してきた。

トニーレオン 59歳
ドニーヤン 58歳

 ドニーの方が若いやんけ! というような雰囲気を出しながら「Donny is younger」と妻にさらに問いただすと、妻は「ドニーは英語が下手なんじゃない?」とめんどくさそうに言い返
してきた。

 この妻のテキトーな一言が私の胸に刺さった。

 

 そういえば、日本人俳優で海外映画界で成功したと言えるのは渡辺謙と金城武くらいだ。もちろんこれまでも多くの日本人俳優たちが海外の映画に出演してきて重要な役もあったが実はセリフが多い役はほとんどなく、英語で二言三言話すだけ「おお!この人英語喋れんだ」となるのが日本映画界の限界であった。

 昔聞いたことがあるのは、ただ英語が発音できるだけではハリウッドでは通用しない。全米、全世界に通じる英語を話せなければアメリカンドリームは絶対に叶わない、ということだ

 きっとトニーにはその英語力があったんだろう。トニーはこの出演でギャラが7億円だったというから「英語勉強しといて良かったー!」と内心思っているに違いない。

 海外とは全く別世界である。アメリカンドリームとかパツキンのチャンネーと付き合いたいとかそれぞれに海外生活に抱く夢はあると思うが、それよりも何よりも「その世界のことを知りたい、学びたい」と思うことがそこでの生活に順応するためにまず必要な心構えである。知るということは生活様式や文化だけでなく、言語も当然学ばなければならない。

 島国育ちの日本人が海外で苦戦するのは大和魂を見せてやるんだ、カタコト英語で何が悪いと頑固になりがちだからである。

 

 トニーとドニー、名前も身長も年齢もほぼ同じ2人のスーパースターの明暗を分けたのがたぶん英語力だったということを私たちはしかと心に留めておくべきだろう。


ルーシー龍ルーシー龍(りゅう)

東京都出身。香港歴8年。世の中のオヤジの威厳を取り戻すため愛娘に甘い妻と日々衝突を繰り返しながら子育てに奮闘中。

 

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