僕の香妻交際日記 第61回 ありがとう、でも欲しいのはそれじゃない

2021/05/12

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先日、日本人を妻に持つアメリカ人のジョーが流暢な日本語でこんなことを言っていた。

 

「今日も妻が料理を作って僕の帰りを待ってマス。でも僕が本当に食べたいのはピザなんデス。そんなに時間とお金をかけてご飯とか味噌汁とか作らなくていいんデス。ピザとコーラがあれば…。もちろん、これは妻には言えませんガ。」

 

そう言ってジョーは私からの食事の誘いを断り、妻の待つサイワンホーのマンションへと家路を急いだ。

「ピザとコーラがあれば…」という彼の気持ちがよく分かりすぎて、私はその時彼を励ますような気の利いた言葉が見つからず、ただただ深く頷く(うなずく)ことしかできなかった。

 

夫婦間の価値観の違いはもはや国籍だの文化だのを超越して、基本的には人間対人間の話になるので、日本人夫婦でも香港人夫婦でもこのような愚痴がお互いに出ることは多々あるだろう。

もちろん我が家も例外ではないのだが、私の妻の場合は夫(私)のことを大切にしてくれているが故の気遣いが多く、逆にそれが夫(私)を戸惑わせている。

 

1.3時間コトコト煮込んだスープ

香港の食卓にスープは欠かせない一品で、それもしょっぱくて美味しい味噌汁と違って鶏肉丸ごととか野菜とか漢方薬とかが入った本気のスープである。我が家でもデッカい土瓶みたいな鍋に具材全部入れて3時間煮込むスープが度々登場するのだが、そのスープが出た日はビールは飲めないというルールがある。

仕事から帰ってまずは一杯キンキンに冷えたビールを飲みたい…という時に妻が笑顔でアツアツのスープを出してくるのだ。アツモリ!

 

2.常温の水

滋養のために漢方入りスープを飲むのは理解できるのだが、だからと言ってアツアツのスープではのどの渇きは癒せないので、せめて冷たい水を飲もうと水に氷を入れようとすると、妻が冷凍庫を開けようとする私の手を止める。「冷たい飲み物は体に良くないから」と水だけを飲むように勧めてくるのだ。アサヒ、スーパードライ!

 

3.ほぼタピオカ

そんな健康に気を遣う妻もタピオカミルクティには目がなく、しょっちゅう仕事帰りに買って帰ってくる。しかし、香港のタピオカミルクティは量が多いのでたいてい自分一人では飲み切れず、でも捨てるのはもったいないからと最後のフィニッシュの部分を私に委ねてくる。フィニッシュと言ってもミルクティはほとんど残っておらず、残っているのはほぼタピオカだ。ビールはダメだけどタピオカはいいのかよ!なんて思ったことはありません。

 

4.モンブランのベルト

スティーブジョブズに影響された私は、月から金曜日まで同じチノパンを履き、ユニクロのTシャツかポロシャツで出勤するようにしている。そんな私を見て、「あんた、外見がプロフェッショナルじゃないわね」とTUMIのカバンとか、ブルックスブラザーズのジャケットとか、フェラガモのネクタイとかモンブランのベルトとかペンとか買ってきてくれるのだが、TUMIのカバン以外、ほぼ使っていない。

 

50HKDのシャツを着ていてもカッコよく見える男になりたい私と、カッコ良くないんだからせめてカッコいいシャツを着なさいという妻とでは意見が食い違うのは致し方ない。それでも妻の優しさには感謝しているので、「10年寿命が縮まってもキンキンのビールを飲みたいんじゃ」なんてことは言わず、なるべく彼女の前では言うことを聞くようにしている。

 

ジョーも私もなんて妻想いなんでしょう。世の男たちもまだまだ捨てたモノではありませんね。おしまい。

 


ルーシー龍ルーシー龍(りゅう)

東京都出身。香港歴7年。元日本語講師。元学習塾塾長。現在香港企業窓際マネージャー。柔道三段。妻は香港人。娘はハーフ。猫は香港仔出身。愛読書は武士道。

 

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