コーヒー特集 Part 1

2019/05/08

70年代の香港のコーヒー文化を今に残す老舗「華南氷室」

一杯のコーヒーは忙しい香港人の生活に欠かせないもので、もはや一つの文化と言える。どのように毎日の飲み物「コーヒー」が文化として発展してきたかを知るためには、香港におけるコーヒーの歴史を理解していなければない。そこで、香港に並ぶ「氷室」を軸に、歴史の旅に出発しよう。

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「氷室」香港のコーヒー文化のふるさとDSCF1241

「氷室」は、香港における西洋食文化を語る上で欠かせない。香港人は氷室でコーヒーを飲み、ケーキを食べて午後を過ごしてきた。その習慣は今の若者の親世代に多くみられた。世代が変わり、多くの「氷室」が大型飲食店に取り替えられつつある。香港からコーヒー文化の生き証人が消える前に、「氷室」とコーヒーの織りなす歴史を見ていこう。

香港がまだ「英領香港」だった頃。1940-50年代、当時の香港の食文化は西洋のアフタヌーンティーの影響を受けた、軽食、デザート、飲み物のみを提供する店舗が徐々に現れてきた。蒸し暑い香港の夏場には天井から下がった扇風機が人々に涼しさをもたらし、小豆の氷、アイスコーヒー、アイスミルクティーなど冷たい洋風の飲み物が庶民でも手の届きやすい価格で売られたことにより、いつしか香港の人々は「氷室」という名で呼ぶようになった。

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時代とともにメニューも変化する。1970-80年代、客の要望に応じ、お粥や麺、ご飯ものなど、各店舗の趣向を凝らしたメニューが登場する。その頃には、香港人にとって氷室はなくてはならないものとなっていたに違いない。

営業や経営の手法が現在の「茶餐廳」と似ているため、「氷室」が「茶餐廳」の前身であると考える人も多い。しかし実際に「氷室」と「茶餐廳」の営業許可ライセンスは異なっている。具体的には、「氷室」では火を使った食べ物を提供することが禁止されている。一方「茶餐廳」はこの制限はないのだ。一度店舗のメニューを覗いて、その違いを確かめてみてはいかがだろうか。

現在の香港では、「氷室」のオーナーが高齢化傾向にある他、昨今の家賃事情などから、引退し、店を畳む者も多い。伝統的な旧式「氷室」は香港中探しても約10店舗。「華南氷室」はその中の一つだ。

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「華南氷室」に入るとすぐ気がつくのが内装。1978年開店当時の内装を保ち、まるでタイムトンネルに入ったかのよう。店内はモダニズムのシンプルデザイン。緑と白を用いた内装や四角い座席、歴史の重みを感じる机や椅子の色、質感が人々を歴史の旅に誘う。この店にはパンキャビネットが置かれており、エッグロール、エッグタルト、メロンパンなどが並べられ、キャビネットの窓から直接購入することも、店内で購入することも可能である。70年代によく見られた香港映画のワンシーンのようだ。

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「華南氷室」のコーヒーの特徴はそのバランスの良さだ。キメの細かな滑らかさと甘い香りが口に広がる。

ではなぜ香港でここまでコーヒーが人気になったのだろうか。その訳は、1970-80年代にかけ、工場や作業場が混雑し、工場で働くサラリーマンがリフレッシュするためにコーヒーを飲む必要があったためだ。

「華南氷室」で使用されるコーヒー粉末は特別仕様。淹れ方は香港スタイルのストッキングミルクティーと同じだ。つまり、コーヒー粉をネルドリップの中に入れ、お湯を入れて淹れる。

香港スタイルのコーヒーは、ほとんどのコーヒーに濃縮乳と練乳が混ざっているため、元々の風味が強い。そこで華南氷室では、コーヒーの風味と牛乳の風味のバランスをとるために、コーヒーの風味を豊かにしている。

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ステップ1 → ステップ2 → ステップ3 → ステップ4

 

 

ここで、香港でのコーヒー用語を説明しよう。

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とにかく効率を重視する香港人。注文の効率アップのため、専門用語を作り出してしまった。従業員側も、販売記録や注文のミス防止につながり一石二鳥。例えば、例えば、「飛沙走奶(フェイザーダウライ)」または「齋啡(ザイフェイ)」は、ブラックコーヒーを表す。「沙」は広東語で砂糖と同じ発音。また「奶」は練乳や牛乳をあらわす。「飛」と「走」は省くという意味で使われている。

また「啡走(フェイザウ)」は、練乳抜き「啡」はコーヒー、「走」は練乳で砂糖を取り替えるというの意味。

「鴛鴦茶(インユンチャ)」は香港式のミルクティーとコーヒーを混ぜた香港のオリジナルドリンクだ。

「鴛鴦茶」は香港のコーヒー文化の傑作。香港式ミルクティーにコーヒーを加えたものだ。

香港式ミルクティー以上に、香港独特の飲み物と言える。香港には、他にも、コーヒーを木綿のろ過袋でこした「ストッキング・コーヒー」と呼ばれるものもある。香港の文化の象徴とされているイギリスの植民地支配下の西洋文化と伝統的な中華文化が重なった、香港らしい逸品たちと言える。

 

おすすめの食べ物たち

香港のカフェの代名詞といっても過言ではない最ミルクティーは、スリランカの紅茶を使用。お茶は香りがよく、滑らかな口触りがある。旅行ガイドブックからミルクティーの店としてお勧めもされるなどしている。

メロンパンにバターが包まれた菠蘿油(ポーローヤウ)は、サクサクした皮と冷たいバターのパンにかぶりつくと、どこか懐かしい味がする。

沙嗲牛肉麵(サテーアウヨッミン)は、スープにサテーソースを混ぜた。牛肉は一般的な色より濃く、香港に昔から伝わる料理は独特の味がする。

このような古くから親しまれている味ももちろんだが、最も我々の心を温めるものは店員とお客様のやりとりだ。

午後のティータイム。一杯のお茶、ケーキを食べるため、町の人々が「華南氷室」にやって来た。

ほとんどの従業員は20年以上働く大ベテラン。彼らと町の人々はまるで家族のように長い付き合いだ。あるお客様は10年以上の常連。店に座った瞬間、お客様のお気に入りの紅茶やコーヒーがサーブされる。漢字は冷たい「氷室」であっても、人々の間に通う暖かさは本物だ。

 

 


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華南氷室
住所:G/F., 87 Kweilin St., Sham Shui Po
時間:月~日 6:00~19:00

 

 

 

 

 

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