特集: 街市と熟食中心 Part 1

2017/05/18

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街 市

そもそも街市って、何?

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人が集まれば市が立つ。香港が香港と呼ばれるようになる前から、この地には人々が住み、中でも現在の新界地区の北、粉嶺や元朗、大埔などには古くから人が集まり、物の交易の場、「墟」が成立していた。香港島や九龍半島にほとんど人が住んでいなかった時代からだ。1842年、アヘン戦争によって英国がここを植民地とすると、香港島には早くも市場が出現。当初は「市集」と呼ばれたこのマーケットは衛生環境劣悪で、伝染病などで少なからぬ数の英国人が命を落としたという。このため植民地政府はこれを管理し、衛生について新しい制度を立て直そうと、「街市」の概念が生まれた。文字通りストリート・マーケットだが、路上の市場を衛生管理の行き届く建物内に集約しようというものだ。1850年に中環(セントラル)に「中環街市」ができ、以後今日に至るまで香港の各エリアに作られた「街市」は政府系、民間のものを合わせて180以上。収容されている生鮮食料品店は約2,700軒にのぼる。現在も元々の「ストリート・マーケット」スタイルの路上市場は各「市政大廈」の街市の周辺や大埔、元朗、旺角、北角の春秧街、筲箕湾の東大街などに残るが、セントラルの嘉咸街(グラハムストリート)のように縮小、あるいは消え行く傾向にある。

中環・嘉咸街(Graham Street)

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「嘉咸街」は1840年代から稼働しており、香港で最も古い街市だ。道の両側には野菜や、シーフード、豚肉など、様々な店が並ぶ。この街市は他の店に比べて安くて「シェフの天国」と呼ばれた場所だ。セントラルのど真ん中のお洒落な繁華街のすぐそばの坂道に続く街市の風景は、100年以上も前の香港島の風情を今に伝えている。

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1994年の映画「重慶森林(恋する惑星)」では王菲(ウォン・フェイ)が嘉咸街をうろついていたし、近くに1970年代からオープンしていた「新景記粉麵家」という麺屋では2013年のホラー映画「迷離夜」が撮影された。香港らしい雰囲気を残していた嘉咸街だが、現在は政府による再開発の最中だ。プロジェクトでは、住宅・商業ビル、ホテルや小売用途、およびコミュニティ施設や公共オープンスペースが計画されている。街市の一部は「嘉咸市集」という臨時の街市に移っているが、賃料が高く移転はスムーズに運んでいるとはいえない。

旺角・広東道(Canton Road)

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同じ道でも、高級ブランド店が軒を連ねる尖沙咀(チムサーチョイ)の広東道とは、ひと味も二味も、いや、全く趣きが異なる、旺角(モンコック)付近の広東道。ここの街市は南は䋬油街(ソイストリート)から北へ、旺角街市と亞皆老街(アーガイルストリート)を越えて旺角道(モンコックロード)まで、約500mにわたって続く。売られている物は衣料品から雑貨、乾物、果物、野菜、肉、鮮魚と様々。常に地元の人たちで賑わっており、他の街市と同じく活気に満ちている。特に現在は稼働していない旺角街市の周辺では、広東道だけでなく、街市の建物を取り囲むように鮮魚を中心とした店がずらりと並び、水槽から飛び出した魚が路上で跳ねている光景は圧巻だ。街市の真っただ中、奶路臣街(ネルソンストリート)から見上げるランガムプレイスとの対比が感慨深い。

香港の街市に見つけたバウハウス

先に述べた通り(P16)、香港で最古の集約型街市は「中環街市」。この前身の市集は「広州市場」と呼ばれ、嘉咸街と皇后大道の交差点あたりにあって、東西、新旧の文化が入り混じる場所だった。初代の中環街市が嘉咸街の目と鼻の距離に完成したのは1858年。今から約160年前のことだ。二代目の建物は同じ場所に1895年、3階建てで中央に塔を持つヴィクトリア様式をもって建てられている。お隣の上環(ションワン)に1905年に完成した街市はエドワーディアン・バロック様式。現在「西港城(ウエスタンマーケット)」として観光スポットとなっている。

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代目の中環街市。 「市民とセントラルで働く人のために」 と 「城中緑洲」 なる、 グリーンに親しめる施設への立て替えが決まった。 このバウハウス様建築も姿を消してしまうことになるのだろうか

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中環街市、西側の壁面

さて、中環に現在残っている建物が三代目中環街市で、第三級歴史建物に指定されている。1939年に完成したこの建物は当時の最先端であるバウハウス様式が採用されており機能的で簡素なデザインが特長だ。

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上環の西港城(ウエスタンマーケット)はエドワーディアン・バロック様式

バウハウスとは1919年に近代建築の巨匠ヴァルター・グロウピウスによってドイツのヴァイマールに開設された美術学校。その教育と活動は平面、プロダクト、衣装、建築などのデザインや写真など多岐にわたる。1933年にナチによって学校は閉鎖されたが、合理性を追求した機能主義的なデザインはその後の美術・デザイン界に大きな影響を与えた。1930年代はその流行の真っただ中と言っていい。1937年に完成した湾仔街市もバウハウス建築だ。2008年に街市は閉じられ、現在は往時の入り口と表面の意匠を残したまま高級マンションに建て替えられている。全面的取り壊しはま免れたものの、美しい曲線を活かしたバウハウス建築が安っぽいレプリカのようになってしまっているのは残念だ。

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湾仔街市北側の入り口(Wikipedia 中文版より)

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2008年の湾仔街市(Wikipedia 中文版より)

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現在の様子(Wikipedia 中文版より)

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旺角街市もバウハウス様式

その他、2010年に街市としての役割を終えた旺角街市も1977年の建築ながら、バウハウス様式の建物だ。こうして街市の「建物」だけを見てもいろいろと興味のタネは尽きない。

「街市のおサカナの好き」に聞いてみる

2010年から4年間にわたって街市の魚介類に関するブログを綴っていたという、ガイシ系お魚好き、魚太郎さん(もちろん仮名です)にお話を伺った。

街市の魚といえば、安い・新鮮、でも不衛生?など、いろいろなイメージが湧くのですが。

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確かに新鮮なものが多いとは思いますが、街市だからといって新鮮とは限りません。これはスーパーマーケットでも同じですね。商品管理ができていない店では痛んだ野菜や果物が平気で売られてたりしますもんね。朝早い時間の街市だと、前の日の売れ残りを冷蔵庫に保存していたものを並べたりしています。買う側がしっかり見極めなければならないということでしょうか。一般的には目がキレイなもの、エラをのぞいてみて鮮やかに赤いものは新鮮ですね。値段的には十分安いと感じます。

街市ではどんな魚が売られているんですか?

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いろいろです(笑)。種類はとても豊富だと思います。日本でもお馴染み魚もいますし、香港ならではものもあります。また、日本ではあまり食用としないものも売られていたりしますね。例えば、タイの 仲 間 は マダイ( 養殖)、キダイ、ヒレコダイ、キチヌ、ヘダイなど日本と変わらないものが売られています。ゴマサバやアジ、イトヨリ、キスなども一般的です。香港ならではと感じるのはいわゆる「石斑」、ハタの仲間が充実していることですね。ちょっと意外だったのはけっこう釣り針付きのものが売られてることです。タイやアマダイに多いです。カツオの仲間のスマという魚も見かけるんですが、香港人には不人気です。ゴマフエダイは養殖しているとみえて、安定して見かけます。美味しい魚ですよ。

オススメの魚介は?

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f0237106_21512735 豆アジです。せいぜい10cmほどの小さなアジですね。下処理も比較的簡単ですし、安い(笑)。から揚げや南蛮漬けにすると美味しいですよ。あとはワタリガニの仲間ですね。何種類かありますが、たいてい生きたまま売られています。茹でたり蒸したり、鍋にしたりとほとんど切るということをしなくていいので楽。美味しいです。香港の温かい海で育った魚は脂が乗ってないので、日本人的にはあまり美味しくありません。が、干物にしたりバターやオリーブオイルを使った料理など工夫次第で美味しくいただけます。一番美味しくないのはグルクマの焼き魚かもしれません(笑)。

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