大坑特集1・北角ぶら歩き「歴史と伝統に触れる」

2015/09/22

知らない街を歩いてみよう!
身近な街で見つけてみよう!

「昔日香港(Hong Kong in Old Time)」(地政聰署絵繪處)という写真集がある。空撮で記録された1964年の香港の姿を見ることができる貴重な資料だ。この写真集で大坑(タイハン)から北角(ノースポイント)の頁を見てみると、海岸線は現在とそれほど違いがないことが分かる。紅磡(ホンハム)や新界の沙田(シャーティン)が埋め立てによって、約50年前の写真と大きくその姿を変えているのに比べると、少々意外な感じがしないでもない。
実はこの地区、殊に現在のヴィクトリアパークの山側、コーズウェイ・ロードまでは、香港が英領となって早々に埋め立てられている。約150年以上前のことだ。
あらためて1964年の写真をながめると、ノースポイントには発電所、小規模ながらドックやオイルタンクが見て取れる。香港島の繁華街、銅鑼湾(コーズウェイベイ)に隣接し、南側には日本人学校があるなど、我々日本人にも馴染みのあるこの地区にかつてそんな施設があったとは驚きだが、その痕跡は街路の名前から窺い知ることができる。
つい最近までの「町工場の街」から「ちょっとオシャレな穴場の街」に変貌しつつある大坑を出発点に、今も「香港らしさ」を色濃く残す北角まで、寄り道しながら歩いてみた。知ってるつもりで知らなかった街の魅力が一杯だ!

大坑(タイハン)出かける前に知っておこう!

大坑〜北角ミニヒストリー

隠れ家的なレストラン・カフェで注目
香港らしさが漂う下町エリアに、個性的で隠れ家的なレストランやカフェなどがあり、おしゃれスポットとして注目されている大坑(タイハン)。MTR天后駅から歩いて5分ほどの場所にある。街の喧騒に別れを告げて、銅鑼湾(コーズウェイベイ)からも歩いて15分ほどで到着する。
大坑と呼ばれているのは、緑に囲まれた中学校「皇仁書院」と「香港中央図書館」との裏手にある銅鑼湾道の南側、山の手の高級住宅街へと続く大坑道の周辺に広がるエリアである。
大坑は、もともと漁業と農業を営む香港の伝統的な村落のひとつだった。100年以上の歴史がある。現在、ビクトリアパークと香港中央図書などがある場所は埋め立てによってできた土地で、かつては海だった。1958年に第一期の埋め立て工事が始まるまでは現在の銅鑼湾道に沿って海岸線が広がっていたのだ。
また以前大坑には、山や地域から湧き出た水が集まり、海に注ぐ水路(坑)があった。地名はここから由来するものらしい。現在、この水の道は人工水路になっている。

唐樓が残るレトロな街がおしゃれスポットに
現在の大坑は、二つのエリアからなる。ひとつは山の手にある高級住宅街エリアで、もうひとつは銅鑼湾道南側の平地エリアである。平地エリアには、半世紀以上も前に建てられた「唐樓(トンラウ)」と呼ばれる、エレベーターのない低層階の古いアパートも残されているが老朽化も目立つ。そのため、比較的に安い賃貸料と交通の至便さに惹かれて、デザイナーなど若い人が住み始めるようになった。また、ここは自動車の修理工場など町工場が多いエリアでもあった。山の手に住む富裕層の高級車を修理するニーズがあったのだろう。スタイリッシュなカフェの前が自動車工場という風景もよく見られたが、工場は歳月を追うごとに姿を消し、飲食に変わりつつある。
大坑は、洗濯物がぶらさがる唐樓が残る、ほっと一息つける空間で、ローカル&多国籍の美食が楽しめることも人気となっている。駐車スペーも多く、香港人には、友達や家族と出かけやすいのも魅力となっているようだ。
ローカル&多国籍の美食 唐樓(トンラウ)の自動車修理工場

ザ・香港な露店通りが残る香港島
最北端の町
一方、北角(ノースポイント)は、エネルギッシュな庶民の暮らしを感じることができる街だ。トラムが露店が並ぶ狭い春秧街を「ティンティン(叮叮)」と警鐘を鳴らしながら通る風景は、香港名物にもなっている。
北角は香港島の最北端に位置し、100年ほど前はビクトリア湾に突き出した半島のような形をしていた。灯台や地域の防衛拠点などが置かれ、19世紀末期には軍事的にも重要なエリアとなった。香港の中ではもっとも早く開発されたエリアのひとつで、政府によって漁民が水上生活をしていた「避風塘(ベイフォントン)」等の埋め立てが進められ、1930年代までに、ほぼ現在に近い地形ができあがっている。香港には中国からの移民が多いが、特に北角には福建省から移ってきた裕福な人たちが多く住む。このエリアには、1919年に香港の電力会社が香港初の発電所を作り、1933年にオランダの物流会社が本社を置いている。こうした企業の進出も、街の発展の一翼を担ってきた。その名残は「電気道」などの通り名から感じることができる。

シーサイドホテル・高級住宅街と共存
現在、夜景が美しい海沿いのエリアには高層の高級アパートメントやホテルが林立し、山の手エリアも高級住宅街となっている。しかし街の中心部には昔ながらの市場の姿が残されている。春秧街など狭い通りに、肉や魚、野菜などを販売する商店、露店などがひしめくように立ち並び、それを求める人々で活気があふれる。現在進行形で餃子を作り販売する店に、中国調味料を扱う店、焼きたてパンを販売する店など見ているだけでも楽しい。また馬寶道には安い衣料品を販売している露店が軒を連ね、多くの人が引き込まれていく。飲茶や香港スイーツの有名店もあり、香港のローカルフードも楽しめる。

シーサイド地図
道の由来に歴史ありその1
電気道(Electric Road)
天后(ティンハウ)から北角(ノースポイント)まで湾岸に沿うように伸びる「電気道」は実は知る人ぞ知るグルメストリートだが、なぜ電気と名がつくのか首をかしげる方も多いだろう。実は1919年に香港の電力会社、香港電燈有限公司が当エリアに香港初の発電所を作り、稼動させたのが名前の由来となっている。当時はまだ名前がつけられておらず、整備も進んでいなかったが、発電所が開設されると同時に瞬く間に北角で一番賑やかな通りとなり、道路も1929年に「電気道」と名づけられた。しかしその後北角の人口増加に伴う電力不足から、発電所は1978年に移転してしまった。「電気道」という通りの名称は、今では発電所が稼動していた当時の面影を残す唯一の名残となったのだ。

渣華道(Java Road)
電気道から名前が切り替わり、ノースポイントのMTR駅から湾岸沿いに伸びる「渣華道(JavaRoad)」は、1933年当時この地に本社を置いたオランダの物流会社ロイヤル・インターオーシャンがインドネシアのジャワ島にちなんで命名された通り。同社はオランダと香港間のほか、上海、ジャカルタ、バンドン、スラバヤとも交易を結んでおり、主要な貿易産物はインドネシアで採れるナツメグやクローブなどの香辛料であったという。

イベントで賑わう中秋節もうすぐ中秋、香港の伝統的な文化に触れてみる!
中秋節に一度は訪れてみよう!
迫力満点の火の舞

大坑といえば、毎年中秋節に行われる「舞火龍(ファイヤー・ドラゴン・ダンス)」が有名だ。その歴史は古く、約100年前、台風が直撃した村に疫病が流行した際、ある占い師が「災いを止めるためには、これから訪れる中秋節に3日3晩火の舞を続けることだ。」と進言したことから始まったといわれる。そこで、村人たちは藁で作った大きな龍を線香で覆って火をつけ、太鼓打ちと爆竹を合わせて、占い師に言われたとおりに踊り続けた。そうしたところ疫病がなくなったという。以降、舞火龍は村の伝統行事となり、一時、中断されたこともあったが、2003年のSARSが流行した年に厄払いとして復活した。
一度は訪れたいイベント舞火龍 舞火龍(ファイヤー・ドラゴン・ダンス)舞火龍(ファイヤー・ドラゴン・ダンス)
香港にいるからには一度は訪れてみたいイベントだが、当日は多くの観光客と香港人でごった返すため、それなりの気合いが必要だ。また少し早めに訪れて火をつける前の龍を眺めるのもオススメ。どこで見ていいかわからない方は、観客の最も多く集まるWun Sha Streetや近くのレストラン・バーで食事をしながら龍がやって来るのを待ってみてもよいだろう。太鼓の音とともに煙の中を乱舞する火龍の祭りは見ごたえがあり、伝統を肌で感じることができる。詳しくはウェブサイトにて確認しよう!

舞火龍
日時:9月26~28日 19:30~
場所:大坑(MTR天后駅B出口から徒歩10分)
ウェブ:http://www.taihangfiredragon.h

パワースポット「大坑蓮花宮」でエネルギー吸収!

数々のパワースポットを持つ香港。黄大仙や車公廟は外国人にも有名な場所だが、ここ「蓮花宮」はローカルの間で根強い人気を有し、知る人ぞ知る聖地だ。近年、食の街として知られるタイハン(大坑)に位置し、建立されたのは1863年、既に150年以上の歴史がある。現在は一級建築にも指定されている。
大坑蓮花宮 中国と香港の建築技法が混ざり合う蓮花宮 天井には火の龍が描かれている
巨大な石の上に建てられたこのお寺。なぜ「蓮花宮」と命名されたのだろうか。その昔、この場所の蓮の花に腰を下ろした観音菩薩が姿を現し住民たちに恵みを与えたことで、その感謝の気持ちを伝えるため、このお寺を建て蓮花宮と名付けたという。本堂は上から見ると八角形の蓮の形を模して作られており、中国の建築技法と香港の文化が混ざりあっているそうだ。一番の見どころは天井に刻まれた龍の模様。毎年、中秋に行われるお祭「大坑舞火龍」に出てくる火の龍が描かれており、祭りの際に無数の線香で作られる龍の眼もここで点火される。
拝観に訪れる人は比較的少ないようだが、「おみくじがよく当たる」「願い事が叶った」という噂を聞く。しかし中国式のおみくじを引いてみると、書かれているのは香港人でも読めないほどかなり古い言葉だ。内容が気になる方はお寺のスタッフに聞いてみよう。
さらにここでは「擲筊(ポエ占い)」ができる。これは道教寺院が多い香港ではよく知られた占いの1つだそう。二枚貝を割ったような形の2つの堅い石を床に投げて、落ちた状態から自分の行こうとしている方向が正しいのか間違っているのかを占うというもの。もし一方が丸く膨らみもう一方が平らなら「その方向へ進んでよし」、逆なら「諦めなさい」という神様の指示らしい。チャンスは三回まで。迷うことがある人は、蓮花宮を訪れて神様に聞いてみよう!

大坑蓮花宮・外観坑蓮花宮
アクセス:MTR天后駅のB出口を出て銅鑼湾道に沿って徒歩約5分、
左折し蓮花宮西街に入ってすぐ
時間:8:00~17:00(年中無休)

 

 

都会の喧騒から離れゆっくり参拝したい方必見!

天后廟MTR天后(ティンハウ)駅から徒歩5分、駅名の由来ともなっている「天后廟」がひっそりと佇んでいる。観光地化されておらず、地元の方が拝みに訪れることが多いという同廟は、香港の中心地にありながらも静寂な雰囲気の中、ゆっくりと参拝ができるのが魅力だ。
宋の時代に中国・福建省に実在した巫女が航海の守り神「天后(媽祖)」となり古くから信仰されてきた天后廟。レパルスベイや油麻地(ヤウマーテイ)にある廟が観光客には有名だが、この地区に訪れたらぜひ足を運んでみよう。運気アップの他に、廟の色彩や繊細な伽藍・彫刻にも見どころがあり、のんびり過ごしたい方にもオススメ!と、言いたいところだが、現在は補修工事中。参拝はできるが、その全貌を見る事はできなくなっている。工事終了は今年の11月13日予定だ。
繊細な伽藍・彫刻

天后廟
住所:10 Tin Hau Temple Rd.,CWB
時間:7:00~17:00

 

続きアイコン

Pocket
LINEで送る