グルメ特集1・香港と広東ローカル美食「レストランで飲茶」
香港、広東に暮らす我々日本人は、いわばこの地では「外国人」。日本に居た時と同じく美味しい日本料理やラーメンが食べられる便利さは嬉しい限りだが、「郷に入れば郷に従え」という言葉がある通り、せっかくこの地にいるのなら、地元の庶民の味にも触れてみたい。ローカル店にも興味はあるけど「言葉がわからないから」、「注文の仕方がわからない」と二の足を踏んでしまっている人も多いのでは?
でも、心配は無用。食べたい気持ちがあれば指差し注文だってOKだ。よしんば思ったものと違う物が出てしたとしても、そこは香港ネタの笑い話にしてしまおう!
雑然とした路上に並べられたテーブルで飲むビール、レトロな雰囲気のお店でかじるパイナップルパンに、まったりとしたミルクティー…。どれも日本では体験できないものばかり。地元の人たちに混じって相席でいただけば、「香港に住んでる!」という実感が湧いて来る!香港のローカル・グルメの代表格「飲茶」の復習から、未体験ゾーンの大排檔、街角スナックまで、あれもこれもジャンルごとにご紹介。
さあ、この特集を片手に美味しいものを探しに行こう!食べに行こう!
時代は変わっても変わらない香港の食文化の基本
【茶楼酒楼】
朝から點心を食べたり、お茶を飲んだり、新聞を見たり、これは香港茶樓でよく見る光景だ。香港の食文化、あるいは生活において、茶樓の存在はなくてはならないものなのだ。
初期の「茶樓」は清朝時代から存在したというが、その頃の茶樓には中国茶と點心しかなかった。朝から昼間営業する茶樓に対して、「酒樓」は主に夜、食事や酒を出す店として存在していた。1903年に、酒樓でありながら茶樓と同じく茶との點心を提供する店が現れ、それ以降、點か提供しない茶樓はどんどん減っていく。現在では「茶樓」と「酒樓」の区別はほとんどなくなり、點心はもちろん朝食から夜食、宴会やマージャンなど多様なサービスを提供する賑やかな所になった。
香港の茶樓における「飲茶」にはいくつの文化がある。例えば、他人がお茶を入れてくれたら、茶碗の横に中指の指先で机を数回軽く叩き、お礼の意思を表す。なせ頭ではなく、指でお礼するだろうか?これはその昔、お忍びで街を視察していた皇帝が、茶樓で食事をした時、店の人にお礼をしたくても自身の身分のせいで頭を下げることが出来ず、代わりに指で謝意を表したことに由来するという。他に、箸と碗を使用する前にお茶もしくは水で洗う、茶壺の蓋を開けるのは茶壺の中に水が無くなったという意味で、店員が見つけると湯を補給くれる、など、知っておきたい「暗黙のルール」がある。
時代を感じさせるワゴンスタイルが健在 香港 信興酒樓
深水埗(サムソイポー)の桂林街と基隆街の角に、「信興酒樓」と書かれた大きな看板が目に入る。書体や色の雰囲気から、年代の古さが伝わって来る。そう、この店は1936年創業。現在の建物は1983年に再建されてから30年以上になる広東料理店だ。
移り変わりの激しい香港で、長年にわたって同じ場所で営業を続けているということは、グルメな香港人によほど愛されている店だということがわかる。そして、オールドスタイルの茶樓の雰囲気を残している数少ない店でもある。早朝、午前6時から午後4時まで、昔ながらのワゴン式の飲茶が楽しめる。自分で伝票のカードを持ってワゴンまで點心を取りに行く方式で、選んだ点心と引き換えにカードにスタンプが押される。内臓系の点心や大包など香港の懐かしの点心が楽しめる。
信興酒樓
住所:G/F.,93 Kweilin St.,
Sham Shui Po
電話:(852)2386-8946
時間:月~日 4:30-23:30
點心がメニューにない茶楼!?香港 景福茶楼
景福茶樓は70年以上歴史がある。馴染みの常連客が食事に集う場所だ。入るとすぐに普通の茶樓ではないことに気がつくだろう。茶樓というよりも茶餐廳といった雰囲気が漂う。茶樓といえば、お茶を飲んだり點心を食べたりする場所だが、景福茶樓には點心が一切ないのだ。ランチタイムと夕方以降のメニューしかない。
実は1936年、「泰福茶樓」という店名で創業当時は點心は提供していたが、その後、コストがかかるためメニューは小菜という主食だけになったという。點心を提供してないの代わりに、店主が広東省中山風の香港料理を開発したのだ。そして、注文の際にリクエストすれば料理の味と材料をある程度調整してくれる。自分の好みに合う料理を見つけることができるかもしれない。。
都心から少し離れた激安レストラン!広州 金瀛酒家
安くて味もよいと評判が高く、子供からお年寄りまで幅広い世代に人気がある「金瀛酒家(Jin Ying restaurant)」。エッグタルト、海老蒸し餃子などの点心や伝統的な広東料理を良心的な値段で味わえることから常連客も多い。
平均でRMB35あれば十分に食事ができるといわれる同店は、一般的な店がRMB16ほどで海老蒸し餃子を提供するのに対し、なんと半値のRMB8でいただける。さらに、RMB2をプラスすると、小食の定番エッグタルトも味わえるとだけあって、都心から離れた小さい村にあるにもかかわらず、連日大盛況だ。
家族でここに来るなら朝飲茶がオススメ!しかし、朝食は10時頃までですぐランチタイムに切り替わるため飲茶を楽しみたいならできるだけ早く訪れよう。食後は、店周辺を散策して休日をのんびり過ごしてみてはいかが?
金瀛酒家
(Jin Ying restaurant)
住所:洲西江6巷8号252路直达
電話:(86)20-34080228
「飲茶」で人気の定番茶楼の點心
【鮮蝦餃】
エビ蒸し餃子。新鮮なエビを使用した伝統の逸品。
【潮州粉果(韮)】
潮州式蒸し餃子。透明もちもち皮の中には、ニラがたっぷり入っていて翡翠色の餃子。
【山竹牛肉球】
牛肉、クワイ、香菜の肉団子点心。湯葉と柑橘の香りがアクセント。
【蟹子焼売】
蟹の卵がのった焼売。香港では定番中の定番。
【酥皮焗叉燒包】只今、香港で大人気!
チャーシュー入りメロンパン。サクサクのクッキー生地の中から、甘辛く煮込んだチャーシューあんが・・・。
【奶皇包】
カスタードが入ったまんじゅう。
【桂花糕】
桂花ゼリー。金木犀の上品な香りがし、爽やかな味わい。
変化の激しい飲食業界をリードする経営手腕
一大飲食グループ「新明苑」の次なる施策とは
5つの飲茶レストランと、4つの茶餐廳を運営する新明苑飲食グループの経営者、梁驅騰(Leung Kui Tang)さんは、同僚たちから親しみを込めて「騰哥(Tang go)」と呼ばれている。学生の頃に始めた野菜リテイラーから約50年に亘って飲食業に携わり、中国本土への返還という激動の時代を潜り抜け、新明苑グループを守り立ててきた。彼の料理への情熱とこだわり、そして今後の展望を伺った。
PPW:一番最初に出店された飲茶レストランから今日までの、香港飲食業界全体の変化をお伺いできますか?
騰哥:最初の飲茶レストランは1992年に開店しました。飲食業界に限らず、中国本土への返還が香港ビジネス
に与えた影響は相当なものがありました。返還前は様々な面で中国本土に先駆けた業務形態を取っていたと思
います。ビジネスに関する先見性はもちろん、組織化された経営スタイル、質にこだわったメニュー、統率の取
れたマネジメント、こだわり抜かれたインテリアデザインなどです。しかし今では中国本土の企業はかなり力をつけてきました。特に低賃金の労働力と低コストの資材力は目を見張るものがあります。これは返還前後で大きく変わったものの1つです。
PPW:ここ10年で、特にサービス業において、香港ビジネスは中国本土からの観光客に大きな影響を受けている印象があります。飲食業界においてはいかがでしょうか?香港客と中国本土客との「食」の違いなど感じますか?
騰哥:香港客と中国本土客の割合は当グループでは大体9:1くらいです。ランチタイムには中国本土客は大体3割くらいまで増えます。食の好みはほとんど変わりませんね。ただ、ご存知の通り香港客は辛すぎるメニューは好まない傾向にありますが、中国本土客はより辛いものが好き。そういう違いはありますね。
PPW:事業を運営する上で大切にされていることはなんですか?
騰哥:バラエティーに富むメニューが売りの飲茶レストランを運営するのはとても大変です。茶餐廳はすべての料理を数人のキッチン担当でまかなっていますが、飲茶レストランでは通常メニューごとに担当者を分けています。例えば肉のロースト(焼き物)班、揚げ物班、点心班、その他の広東料理メニュー班などです。それぞれの班で高いスキルを求められるため、1人の従業員を長く雇い続けることがとても重要になってきます。我々の会社ではボーナスや、福利厚生をきちんと整備し、より良い人材が長く留まってくれるよう常に気を配っています。その甲斐あって、1/5割のスタッフは20年以上も供に働いてくれています。
PPW:飲食業界はとても競争が激しいと思いますが、新明苑グループの強みはなんでしょうか?
騰哥:新しいアイデアを持つこと、そしてそれを実践していくことです。環境面と、健康面は私が特に重要視している課題です。弊社では200個の省エネコンロを購入した例があります。コンロの火が料理のクオリティと味を左右すると判断したためです。例えば調理する際に使う水を沸騰させる場合、このコンロを使うことでより多くの酸素を水に含めることができることができます。酸素を多く含んだ水は冷凍肉を解凍する際に使用できたり、スープやソース、飲み物、だし汁などを作る際にも通常のコンロで沸騰させた水よりも美味しく料理が仕上がります。さらにガス代などの経費に与える影響も軽視できません。このコンロは月間で約100,000ドルから160,000ドルほど節約できます。この新製品を使うことで得られるメリットは大きいと感じています。
PPW:すばらしいですね。なぜこのようなコンロが広く飲食業界で使われていないのでしょうか?
騰哥:実はこのコンロはメンテナンスに費用がかかるのです。私達は専任の技術者を招いて、このコンロのメンテナンスにあたっています。そのコストを考えても導入する価値は十二分にありますね。
PPW:グループの今後の展望をお伺いできますか?
騰哥:栄養面への関心はかつてないほど高まっていると感じています。これを踏まえて、次は薬膳料理にチャレンジしてみようと思っています。例えば滋養効果のある黒ニンニクや、冷えを改善するマカなどの食材を使用したメニューなど面白いですね。
PPW:ありがとうございました。最後に読者の皆さんへメッセージをお願いします。
騰哥:事業を行う上で大切にしていることがあります。「伝統を覆せ、身体に良いものを取り入れよう。」我々ならばそれを実現することができます。ぜひ新明苑グループ自慢のメニューを堪能しにいらっしゃってください。
〈インタビューを終えて〉
一大飲食グループを経営していくのは並大抵のことではないが、騰哥の「食」に対する情熱は、周囲をも巻き込んでいく「力」があると感じた。騰哥の仰るとおり、昨今ではこれまで以上に健康面や環境面への関心が高まっており、飲食業界における今後の変化が楽しみでだ。
新明苑飲食集團
Sun Ming Yuen Catering Group
新明苑 宴會廳 :G~2/F,3 Man Hong Mansion,17 Sai Yu St.,Yuen Long
Shop 208~10,1/F., Fanling Centre,33 San Wan Rd.,Fanling
金明苑 海鮮酒家:Shop 106, Cheung Wah Shopping Centre, Cheung Wah Estate,38 San Wan Rd.,Fanling
行樂軒 燒鵝海鮮酒家:Shop 1 & 2,G&1/F.,Hang Lock Fong,67 Sun Hong St.,Shek Wu Market,Sheung Shui
悅明苑 海鮮酒家:Shop 16,Greenland Garden,15 Shek Pai Tau Rd.,Tuen Mun
悅華餐廳:G/F.,Man Hong Mansion,17 Sai Yu St.,Yuen Long
行樂雞煲小廚:30 San Fat St.,Sheung Shui
點點食:Hang Lock Fong,67 Sun Hong St.,Shek Wu Market,Sheung Shui
美食廊:Shop 106,Cheung Wah Shopping Centre,Cheung Wah Estate,38 San Wan Rd.,Fanling