深セン(SHENZHEN)特集2・深センの”生き字引”が語る

2015/04/01

深センで20年。“生き字引”が語る「日進月歩の都市」

“生き字引”が語る「日進月歩の都市」

 

 

 

 

 

山を切り崩すダイナマイトの爆裂音。キーンと耳の中を駆け抜ける残響の中を舗装車と夥しい数の労働者が“道”を切り拓いていく。「毎日のように道が変わる」そのスピードは当時の深セン市の勢いを物語っていた。1993年からの約20年間、同市の発展と成熟の過程と共に生きてきた“生き字引”に直撃インタビュー。

日本でプラスチックの成形並びに金型を製造する会社に勤務していた青山一夫さんが初めて深セン市南山区の地に足を踏み入れたのは1993年8月のこと。会社から命を受けた新規工場立ち上げのための視察だった。安価な労働力と広大な土地を求めて中国に外資系企業が押し寄せていたこの時代、深セン市のインフラはまだまだ整備されてはいなかったが、急速な発展の兆しを見せる街や行き交う人々のエネルギーに圧倒された。

当時の深セン市南山区

●まず深セン市の第一印象について聞かせて下さい。

「なんと怖い国だなあ」と思いましたよ(笑)。道行く人たちは皆、キツイ口調で声も大きくて、ケンカしてるんじゃないかと思うくらいで(笑)。ただ、街の変貌は凄まじかったですね。今でもビルや建物がものすごい勢いで建ってますけど、当時は“道”でしたね。昨日通った道が次の日には変わっているんですからね。「街の発展=道路」だということを肌で感じました。

エネルギー溢れる深セン市での視察を終えた青山さんは、同年12月より本格的に同市での生活始める。他の日系企業も数多く深センに進出を始めた時代、工場建設のための手続きから地元従業員たちへの技術指導と体力も知力も要するこの業務には日本でも実績を積んだ“精鋭たち”が集まっていたのだという。

エネルギー溢れる深セン市での視察

●何も知らない国で新しい事を一から始めるのは大変だったと思います。

そうですね。近い国とは言え、価値観なども違う部分はありました。はじめのうちは、「期待」と「不安」の間を毎日行ったり来たりしているような感じでしたね(笑)。それでも、羅湖区には日本人が営む料理屋さんも4、5軒ありましたので、そういった場所で夕食を食べながら同じ境遇の日本人たちと情報交換しながらコミュニケーションを取っていましたよ。

●なるほど、当時の生活環境はいかがでしたか?

まあ、生活インフラは現在と比べて格段にレベルが低かったので、生活に関するあらゆる不便はありましたよ。でもそれは、外国に来ているんだから仕方ないことですよ。諦めるしかないのでね(笑)。それでも、治安が悪いこともあって、大体の日本人はホテル住まいでした。だから、そこまで不便だとは私は感じませんでした。なかには、自分でアパートを借りて住んでいた人もいたようですが(笑)。

●当然ですが、現在とは全く違う環境ですね。ずっとマネージメントする立場におられますが、1990年代と現在で中国人が変わってきたと感じることはありますか?

裕福になりましたね、格段に(笑)。我々日本人よりもはっきりと物を言ったり、態度で示してくる気質はあまり変わっていないように思えますが、ここ20年の教育制度の変遷や外国人と接する機会も増えてかなりオープンにはなったと感じます。裕福になったことも原因だと思いますが、最近の若者たちには余裕がありますよ。経済特区内(2010年までは羅湖区、福田区、南山区、塩田区の4区。同年7月、深セン市全域に拡大。)で働く中国人たちにはどこか優越感が感じられましたね。「俺は、特区内で働いているんだ」というような(笑)。

●なるほど、経済の成長と共にそこに暮らす人も少しずつ変わってきているのですね。経済的にも文化的にも成長を続けながら同時に成熟期に入っていくかと思いますが、延べ20年の間深センという都市を見てきてズバリこれからの深センはどうなって行くのでしょうか?

前の会社を定年退職する2009年まで様々な節目がありましたが、それでも深センにある日系企業は、すべて“優良企業”でした。これからはそうはいかないですね。科学館駅を代表する福田区の開発や発展からも分かる通り、そう遠くない将来、“ハード”から“ソフト”に着実に移行していくと思います。蛇口の海上世界駅周辺も完全にソフトに移行しています。これからの中国、特にスピードの早い深センでは、「はっきりと判断すること」が何より大事になってくるかと思います。引く時は引く、やる時はやる。

-初心忘れるべからず-

どんな質問にも快く応えてくれた青山さんは、最後に自身のモットーを聞かれた時にこの言葉を即答した。「初心忘れるべからず」優しい面立ちの中に時より見せる鋭い眼光は、香港を睨みながら目まぐるしく発展してきた深センという特殊な地に何となく似ているように感じた。
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