香港と広東のアート特集5・香港で活躍するアーティスト

2015/02/02

アーティストに聞け!

香港を拠点に活躍する2人の芸術家に、自身の活動や取り巻く芸術環境について話を伺った。

「香港」という地でアーティスト活動を続ける理由とは?また今後のアートシーンの行く末とは?

香港アートの歴史を知る彼女から見た、現在そして、その未来。Dr. Tang Ying Chi, Stella(ドクター・タン・イン・チー、ステラ)さんの作品

一大都市・香港を、アートを通して長年見つめ続けてきた現代アーティストのDr. Tang Ying Chi, Stella(ドクター・タン・イン・チー、ステラ)さん、香港のアート文化についてインタビューを行った。

東洋と西洋の文化が混ざり合い発展したこの国だからこそ表現できるアートとは?いち表現者として、また今後の香港アートの行く末を案ずる者として、彼女は香港の芸術発展をどのように捉えているのだろうか?

●タンさんにとってアートとは何ですか?
アートとは、人々に自分が知らないことを理解させる最善のメディアだと思っています。またアートは日常のなかで触発され作り出されていきますが、私はアートが歴史の記録的役割を担うと信じています。例えば、社会の中で何かが破綻するような出来事が起こった場合、様々な表現方法で、その時、人々が何を考えどのように振舞ったのかを記録することができます。

●なぜタンさんの作品には香港をテーマにしたものが多いのでしょうか?
アート表現を通して自分の人生と香港の発展を思い返すことが、私自身には重要なことなんです。私は芸術活動を始めた早い段階で香港のアイデンティティに注目していました。私達はアジアにいながら西洋文化の影響をとても深く受けていますが、特に香港は東洋と西洋の文化がうまく交じり合った土地です。そんな地に住む人々の行動を記録するため、写真とペイントでアートとして表現することにしたんです。

●香港アートの歴史を教えてください。
1940年代辺りでみられる芸術発展の第1段階では、中国から沢山の芸術家が香港へ流れこんできましたが、彼らの精神や魂はまだ中国にあり、表現する作品にもそれは強く反映されていました。また当時、香港は植民地でしたし芸術活動が制限されていたので、新時代を象徴するような自由な活動はまだできませんでした。

戦後に生まれた子供達が社会に出始めた1960~70年代の第2段階でも、そうした過去の影響は僅かながら残っており、中国に対する感情を作品に表現する傾向がありました。しかしその後、中国以外からも多くの有名アーティストが香港に移住してくるようになり、1980年代はそういった芸術家達によって香港におけるアート活動の黄金時代が形成されたのです。また私達は1997年に香港返還を経験することになります。これ以降、ローカル要素が色濃く盛り込まれるようになりました。

●香港アートの過去と現在ではどのような違いが?
昔はアーティストとして香港で食べていくのは非常に難しいことでしたので、芸術家としての活動を断念する人も多かったかもしれません。しかし近年はインターネットの発展なども影響してアートがより身近になりました。今や無名のアーティストであっても国際的なアート市場に参入できる機会を与えられているわけです。それは世界中の人が香港アートに触れられるようになったとも言えます。それでも、香港のアーティストは自分自身のスタイルを築くためには今後何をすべきかということを考え続けなければいけません。

●香港においてアートが果たす役割とは何ですか?
政府はアーティストの卵を芸術に長けた西洋諸国で学ばせ、香港のアートを一大産業に築き上げようと構想しており、現在多額の投資をしています。しかし私は、アートが香港の中心産業の一部と成り得るかどうかに関してはまだ不透明だと思っています。またアーティストを含め香港の人々は、もっとアート教育や政府が進めるアート促進活動に関心を寄せてほしいです。

●世界から見た香港アートの現在のポジションは?
香港のアーティストにとって、世界へ羽ばたく足がかりをつかむことはまだまだ至難の業です。現段階では、独自の芸術文化を築いていこうという雰囲気が香港にはありません。なかにはローカル文化を学ぶことに積極的な人もいるんですが…。アートを発展させるためにはそれは重要なことで、例えば日本の漫画には長い歴史があり、今や世界で通用する独自のアート文化となっています。漫画家はこのおかげで世界的な知名度を得ることができましたし、文化的な遺産を次の世代へ残すこともできたのです。

●香港アートは今後どのように発展していってほしいと考えますか?
アートの発展は喜ばしいことですし、香港においてアートへの関心が高まっていることには素直に嬉しく感じています。今後は、行政が中心となりさらに芸術活動を広めてくれることを期待しています。

Dr. Tang Ying Chi, Stella(ドクター・タン・イン・チー、ステラ)さん

Dr. Tang Ying Chi, Stella( ドクター・タン・イン・チー、ステラ)

オーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学で芸術学の博士号と修士号を、ロンドンのゴールドスミス大学にて学士を取得。これまで香港の様々な問題をテーマにしたアーティスト活動を続けてきた。彼女の手掛ける作品は香港藝術館や香港文化博物館、シドニー中央図書館など国内外の公共施設にも展示されている。現在、香港在住の芸術家による非営利団体「MIA(Mere Independent Artists)」に所属。
ウェブ:http://www.tangyingchi.com
メール:[email protected]
MIA(Mere Independent Artists)
住所: L5-05, JCCAC, 30 Pak Tin St., Shek Kip Mei
〈会場提供・協力〉
Fashion Walk
住所:Great George St., CWB
ウェブ:http://www.fashionwalk.com.hk

M+(エムプラス)とは?

香港特別行政府がおよそ216億香港ドルの予算を投じる西九文化区を知っているだろうか。「M+」を含む、劇場、展示施設などが入る巨大複合文化エリアが立ち上がる予定だ。Museumの頭文字「M」と、これまでの美術館にない価値を表す「+」を組み合わせた「M+」は、2017年に完成を予定している。エグゼクティブ・ディレクターに、以前ストックホルム近代美術館館長を務めていたラース・ニッティヴェ氏を迎え、20、21世紀の
絵画や彫刻にとどまらず、建築やデザイン、映像もコレクションに加える。「M+」の作品購入予算は17億香港ドルで、アジアの現代美術を中心に、これまでに約4,000点を収集した。元駐中国スイス大使のウリ・シグ氏が集めた世界最大級といわれる中国現代美術のコレクションが目玉だという。

香港で活動する日本人アーティスト

Ayumi Adachi

足立あゆみさんに、自身の活動、
香港アートシーンについて聞いた!

香港にいるからこそ
描き続けているのかも知れない

足立あゆみさん   足立あゆみさんの作品   足立あゆみさんの作品

香港で創作活動に励む日本人アーティスト、足立さんが香港に住み始めたのは1996年。香港が中国に返還される1年前だ。大学の卒業旅行で初めて香港を訪れて以来、この土地の魅力に取り憑かれ、大阪で舞台美術等を手がける会社に勤めながら年に数回のペースで香港へ。「それならいっそ香港に住んでしまおう」と、一般日系企業の営業アシスタントの現地採用として香港に居を移した彼女。「言葉もできないし、香港に住めるなら仕事は何でもよかった」という。1996年という「時代」がそれを許したとも言える。だが、仕事の傍ら自らの作品制作も続けていたという彼女はその後転職を重ね、徐々にアート関係の仕事に近づいていった。

現在はフリーとして創作活動を行っている足立さん。「描きたい物があれば描く。なければ無理には描かない」という彼女だが、来港から今に至るまで創作意欲が途切れたことはないという。「香港に居るからこそ描き続けられているのかも知れないし、自分でその流れを作って来た。日本にいたら描いていたかどうか分からない」。“エネルギッシュ”と形容されがちな香港の街に暮らしているからこそ、「スイッチを切り替えて静かな環境で描きたい」と、今はスタンレー(赤柱)にアトリエを構る。「『自然』など、自分ではコントロールできない物が世の中にはある。あえてそれをコントロールしないように向き合う」というのが一貫した彼女のスタンスだ。自身の作品のスタイルやアプローチの変化も「そう描きたいと感じれば、そうする」と。

年に1度ペースで作品を発表する彼女は、同時にコーズウェイベイ(銅鑼湾)、深センの蛇口などで絵画教室も開いている。大人、子供にかかわらず、「描きたい」「表現したい」という思いの大切さ、描く事の楽しさを伝えている。

近年徐々に海外のギャラリーの香港進出が目立ち始め、2年後に予定されている美術館「M+」のオープンや、昨年始まった「アートバーゼル」など、彼女の来港当時と比べて、香港のアートシーンは大きく変化し、活性化しているように感じられるが、彼女はこの状況をどう見ているのだろうか。

「ギャラリーが増えたことで、海外のいろいろな作品に触れる機会は増えています」。鑑賞者、見る側としては歓迎しつつも、「だからといって、作品が売れるわけでもなく、私たちレベルのアーティストにはあまり関係がない」と、自身アーティストである彼女は冷静だ。「純粋に創作活動だけで生活して行くのは難しいけど、これは世界中どこでも変わらない。香港のアーティスト達も経済的に自立していない若い人たちを除けば、ほとんど大学で教えるとか、商業デザインで生活している」とのこと。

セントラル(中環)のPMQには人が集まり香港の若い世代を中心にアートへの関心は高まっているかに見えるが、「すごく興味をもっている人が来てるんじゃなくて、すごくヒマな人が来てる」。また、M+に関しても「それはすごくいい事だけど、定期的に魅力的な企画を打ち出し、継続的に海外の優れた作品を香港に呼べる人材が香港にあるのか」と、期待と同時に複雑な思いを語る。彼女の話から、行政主導の「香港アートシーンの盛り上がり」と実際に香港で活動するアーティスト達の間にある「温度差」を垣間見る思いだ。

「今は何かしら作品発表の機会や仕事の声がかかる。これはこちらで長く続けてきたおかげ。地道に描いていくしかない」と、シーンの変化に捉われることなく、今後もこの香港で描き続ける足立さん。「次の個展は6月の予定」という彼女の活躍を応援したい。

毎週木曜19:30~21:00まで、
コーズウェイベイ教室にて
アート絵画教室 生徒募集。詳しくは、
http://www.ayumiadachi.wordpress.com

足立 あゆみ/ Ayumi Adachi
電話:(852)9105-0097
ウェブ:http://ayumiadachi.wordpress.com
メール:[email protected]

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