尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.29

2020/09/16

中国初の個人破産制度

 深セン市人民代表大会常務委員会は、2020年8月31日付で中国初の個人破産条例となる「深セン経済特区個人破産条例」(以下「条例」という)を公布し、条例は2021年3月1日から施行される。

 深セン市は1980年に中国初の経済特区に指定された都市で、今年で40周年を迎える。1993年には国の企業破産法制定よりも13年早く、全国に率先して企業破産条例を制定している。個人破産制度でも、トップランナーの役割を担う形となった。

 中国における倒産の基本法である「企業破産法」(2006年8月可決)では、その名のとおり破産制度の対象債務者が企業法人に限定されており、個人債務者を対象とする破産制度は存在していなかった。深セン市で中国初の個人破産条例が正式に制定されたことにより、中国破産法システムを穴埋めする重要プロセスとなったと評価できる。

 2020年1月末時点の統計によれば、深セン市で登記設立済みの商事主体(企業)は330万社に達し、そのうち個人事業者が123万社で3分の1強を占めている。これらの個人事業者は、経営破綻に陥ったとしても従来(条例が施行される前を指す)の法律制度のもとでは、破産制度の保護を受けて市場から撤退又は再生を実現することができない。

 しかしながら、変化の著しい経済環境において、事業に失敗した個人に対してもフレッシュスタート(再起)を認める必要性が強く指摘され、企業破産制度とは別に個人破産制度の構築が急務と認識されていた。

 もちろん、個人破産制度には異論も出ている。その最たるものは「債務者の逃げ得を認めることになる」という意見だ。中国には「老頼」という言葉もある。「老」は「ベテラン」、「頼」は「踏み倒し」の意味で、「老頼」は「踏み倒しの常習犯」を指す。事業が破綻して裁判所が債務の履行命令を出しても、返済を拒否したり姿をくらましたりする事例は後を絶たない。

 しかし、国全体で個人破産制度を導入する流れは変わりがない。中国の経済政策を取りまとめる国家発展改革委員会及びその他の部門は2019年6月22日付の「市場主体撤退制度整備加速の改革方案」において、個人破産制度の構築を提起していた。そこには「個人破産制度を検討・策定し、企業破産により生じた自然人の連帯責任に係る担保債務問題を重点的に解決し、自然人における条件を満たした消費負債を法に基づき合理的に免責できるよう段階的に進め、最終的に全面的な個人破産制度を策定する」との内容が記されている。

 深セン市の条例制定は中国政府の意向を受けているのは確実で、中国メディアは「個人破産は『誠実にして不幸な債務者』のための制度である。『老頼』を見逃す道具ではない」と繰り返し強調している。「中国経済の先端実験区」である深セン市で個人破産制度が軌道に乗れば、いずれ中国全土で法制化されるとみられる

 


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Profile Photo尹秀鍾 Yin Xiuzhong
慶應義塾大学法学(商法)博士。東京と北京の大手渉外法律事務所での執務経験を経て、2014年に深センで広東深秀律師事務所を開設。2020年春に広東卓建律師事務所深セン本部にパートナーとして加入。華南地域の外国系企業を中心に幅広い法務サービスを提供。主な業務領域は、外商投資、M&A、労働法務、事業再編と撤退、模倣品対策、紛争解決など。

 

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