目から鱗の中国法律事情 Vol.47

2020/09/09

中国民法における所有権(中国民法第240条~第270条) その1

 前回までで、今年5月28日に中国で「民法」が可決され、2021年1月1日から施行され、同時にこれまで中国で民法的内容を構成してきた数々の単独民事法規が廃止されると述べました。今回からは、「民法」の具体的内容について見ていきましょう。まずは、これまで単独民事法規の一つである物権法(2021年1月1日廃止予定)の第39条~第69条に規定されている内容から大きな変更はないものの、中国における所有権を見ていきましょう。ここでは特に所有権の一般的規定と国家所有、集団所有、私人所有の規定(中国民法第240条~第270条)について見ていきます。
(※ 以下、「民〇条」は、中国民法の条文番号を、「物〇条」は、物権法の条文番号を意味します)

 

P22 Lawyer_755中国における所有権の複雑さ

 なぜ、民法施行前の物権法時代から大きな変化はないにもかかわらず、中国における所有権を見ていくのでしょうか。それは、中国と日本とでは所有権の基本的構成が大きく異なるために、日本人が最も疑問を抱く点であるため、民法制定を機に再確認しておくにはいい素材となるからです。

 中国は社会主義国家であり、社会的資源は全て国有もしくは公有であるという前提がありました。このため、日本などとは所有権のあり方も大きく異なります。まず、法律により国家の所有に属すると規定されている動産や不動産はいかなる団体や個人もその所有権を取得することはできません(民242条、物41条)。そして、公共の利益に必要があれば、法律に定められている権限および手続きにしたがって、補償などを行うことによって集団所有の土地や団体、個人の家屋、その他不動産を徴用することができるとの規定もあります(民243条、物42条)。また、補修や災害救助など緊急の必要がある場合には法律に定められている権限および手続きにしたがって、団体や個人の不動産や動産を徴用できるとしています(民245条、物44条)。

 このように、社会に必要があれば個人の所有権の保護が強くなされないというのが中国の所有権のあり方であり、日本と大きく異なる点と言えます

 

国家所有物の権利行使は?

 しかし、国家所有の場合にはその所有権はどのように行使されるのでしょうか?国家所有の財産は全国民の所有という意味で、国務院が国家を代表してその所有権を行使するとされています(民246条、物45条)。(続く)

 


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

P30 Lawyer_731

Pocket
LINEで送る