PPWビジネス通信 × アナシス Vol.32

2020/08/26

M1

人事労務のアナシスによる誌上相談会

「賃下げはできるのでしょうか」
問い:経営が厳しい中で賃金を下げる話がありますが、合法なのでしょうか。

黒崎:この誌上相談会では、主に使用者側からのご質問に対して答えてきましたが、今回は労働者側の方々も理解しておく必要があるという観点でお答えしたいと思います。昨年からの香港の混乱や米中貿易摩擦、そして新型コロナの影響がなかなか収まらないなかで、かなり厳しい経営状況となっている企業も出てきています。その中で「コロナ賃下げ」なる言葉も春先からちらほら見かけます。その賃下げですが、結論から言えば香港でも中国でも労使の同意があれば賃下げも可能です。ですが、労使双方に注意が必要です。

そもそも賃下げは、経営悪化にともなう様々なコスト削減の中で、総額人件費削減のさらに具体的な手段の一つです。人員削減というコストダウンに至らせないために取る福利厚生費削減やその他のコストダウン策の中でも、賃下げは総額人件費削減策の最後のものとなるでしょう。大きな定義の中では、残業代削減や裁量賞与の減額・カットなども含まれますし、昨今見られる無給休暇等による調整も実質的な賃下げの一種です。しかしよく議論になるのは、基本給における賃下げです。

先ほど同意があれば賃下げも可能だと書きましたが、条件改悪なので当然困難が予想されます。中国労働契約法第35条には「使用者と労働者が協議一致の上、労働契約に定める内容を変更することができる」とあり、協議一致があれば賃金の引き下げが可能となります。香港でも賃下げそのものは違法でありません。しかし中国でも香港でもその合意が取りにくいこともあり、実質的な賃金の下方硬直性が起こっていたわけです。そしてそれが簡単な事ではないことにも留意してください。

これらを考えるときには、賃下げ前の企業姿勢がまず問われることに注意してください。営業努力、生産性の向上や原価削減、財務リストラ等の様々な経営努力があってさえなお、労働者側の大幅モラル低下を招きやすいのが賃下げです。納得はなかなか得られにくいものです。

ところが今年3月ごろには既に中国系企業に賃金カットのニュースが相次ぎました。そこでは結果としての業績連動給減額や一時帰休なども含まれていましたが、人員削減には慎重な姿勢ながらも素早い対応が目立ちました。香港でも、スタンダード・チャータード銀行の7月の調査では28%の人に収入の減少があったとのこと。香港の3分の1強の人達が、今後解雇や賃金カットがあるだろうと予測しているというものでした。先行き不透明な中で企業がどういう選択肢をとるのか。使用者側にその意思決定が求められる一方で、労働者側にも使用者側と共に状況を乗り切っていく姿勢が問われるのが今でしょう。

新型コロナの影響で在宅勤務を余儀なくされている人達もいます。緊急的なテレワークでは生産性は確実に落ちます。そうならないように仕事を工夫して組織へ貢献している人と、文句ばかりで成果を出せていない人とでは、後日明らかに評価に差が出るはずです。在宅勤務・自宅待機は「休み」ではありません。残念ながら解雇や賃下げのご相談が来る昨今のケースでは、自己中心的な判断と権利の主張ばかりをする方々へのものが多くなっていますが、それは自然なことでしょう。

現地では使用者側である事が多い駐在員の人達も、本社が大変な状況になることも考えられます。これまでよりも、レベルのより高いマネジメントが求められるとき、その足を引っ張る人へは厳しい評価をすることになるでしょう。

一方でこんな状況下でもなんとか成果を出し、評価の高い人達も沢山います。そんな人達はどこでも通用する人達。問題解決力とヒューマンスキルを、困難に直面して磨いている人達です。彼らはたとえ一時的に賃金が下がっても、いずれ復活できるはず。労使双方共にそんな機会として今を捉え、希望を失わない組織でありたいものです。

「共にウイルスと戦おう」というスローガンを香港の衛生署が掲げています。組織の仲間と共に、地域と共に戦う。乗り越える。経営と個人にとって、様々なことが問われています。そして使用者側・経営者側には、より深く広く早い判断が求められています。本当に必要なら、賃下げもやむなし。それは今の状況下でなくてもそうなのです。その賃下げは本当に必要なのでしょうか。

 


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