目から鱗の中国法律事情 Vol.44

2020/06/10

 中国の債権譲渡(契約の譲渡・債の移転) その4

 前回までで、中国の債権譲渡の話題は終わり、中国では「債の移転」という表現で、債権譲渡の他に債務承諾も条文化しているという話をしました。今回はその続きです。


P26 Lawyer_743債務承諾

 債務承諾とは、債務の内容を変更しないで譲受人に対して債務者の債務の全部または一部を譲渡す行為とされています。そして、中国の契約法(中国語原文は「合同法」)第84条は「債務者は契約上の義務の全部または一部を第三者に移転させる場合、債権者の同意を得なければならない」と、第85条は「債務者の義務が移転した場合、新債務者は元の債務者が債権者に対してできた抗弁を主張することができる」、第86条は「債務者の義務が移転した場合、新債務者は主たる債務と関係のある従たる債務を承諾しなければならない。ただし、当該従たる債務が元の債務者自身に専属する場合はこの限りではない」と規定しています。

 つまり、債権譲渡のときの逆パターンで、債務承諾の場合も債権者に債務承諾があったことを知らせなければならないのですが、中国では債務承諾の場合は債権者への通知ではなく、債権者の同意が必要となっています。これは、債権者から見ると、債務を支払ってもらえばいいというものではなく、「あの人にこの債務を支払ってもらうことに意味がある」と考えている場合があるので、債務承諾の場合、債権者の「同意」が必要ということになっているのです

 

中国の「債の移転」

 さて、今シリーズでは、債権譲渡をメインとしながら、日中の違い、そもそも中国では「債権譲渡」は大きな論点ではなく、あくまで「債の移転」の一部であり、日本では条文が存在しない「債務承諾」という論点が債権譲渡と並行して存在していることなどを見てきました。

 取引関係の法制度というのは、意外とどこの国でも類似点が多いものです。そのため、取引をしていると、ついつい自国の法制度と同様であると思い込んでしまいがちですが、債権譲渡に関しても、大枠は日中で共通していますが、細かい点でかなり差異があるということを述べてきました。取引を行う際にも、このような細かい差異に気を付けながら進めていくようにしたいものです

 


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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