尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.21

2020/05/13

コロナ事態における契約紛争解決

 新型コロナウイルスの拡散事態(以下「コロナ事態」という)に対応するために、中國政府は、春節休暇の延長、業務再開の延期、検測と交通移動規制の強化、居住地の閉鎖管理など一連の厳格な管理と隔離措置を講じた。コロナ事態は経済に深刻な打撃を与えて、数多くの企業が操業停止、業務停止を余儀なくされ、厳しい審査認可体制のもと業務再開もままならないことが多い。

 コロナ事態のなか、取引契約や賃貸借契約などの履行に関する紛争が多発し、契約当事者が不可抗力の適用を主張するなどの方法により契約履行不可に伴う契約責任の一部又は全部を免除することを希望するケースが多く見られる。このような契約紛争ケースにおいて、当該契約に根拠規定があれば、違約責任の認定を含めて、関連規定を優先的に適用すべきであり、契約に根拠規定がない場合は、関連法律法規と政策の規定に基づき、具体的に解釈と分析を行う必要がある。

 現在、コロナ事態及び政府による対応措置は「不可抗力」に該当するとの意見が主流となっている。そこで、契約当事者が不可抗力を理由に契約責任の軽減又は免除、契約の変更又は解除などを主張する場合、次の要素及び因果関係などを総合的に勘案しなければならない。

 

(1)
「不可抗力により契約履行が不可能となった」ことを証明しなければならない。例えば、賃貸借契約の場合、賃借人はコロナ事態及び政府の対応措置のため賃借物件を正常に使用できなくなったことについて立証する必要がある。賃借人による賃借物件の使用は影響を受けておらず、コロナ事態及び政府の対応措置により営業収益が減少したことだけでは、賃借人の賃料支払義務は通常免除されない。

(2)
不可抗力は契約の履行期間内に発生しなければならない。すなわち、契約の締結前に、又は契約履行が遅延している期間に不可抗力が発生した場合、不可抗力の適用を主張することは許されない。

(3)
不可抗力事由が契約履行に及ぼす影響の程度に基づき契約責任の減免範囲(全部免除、一部免除又は契約変更、解除要求の認容)を確定しなければならない。

(4)
不可抗力事由に遭遇した契約当事者は、関連事実を遅滞なく相手方当事者に通知しなければならない。

 

 契約当事者が不可抗力の適用を主張するケースのほか、「公平」原則を適用し、契約を引き続き履行することが契約の一方当事者にとって「明らかに不公平」である、又は「契約の目的を実現することができない」と主張する場合、裁判所は公平原則に基づき、紛争事件の実際状況に応じて契約責任の免除や、契約の変更、解除などを決定することができる。

 コロナ事態のなか、契約紛争が発生した場合、契約当事者間で、又は関連調停機構の調停下で、公平、合理、相互理解などの原則に則って協議の上合意することが望ましく、協議、調停など非訴訟紛争解決方法を採ることは中国政府によっても推奨されるところである

 


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Profile Photo尹秀鍾 Yin Xiuzhong
慶應義塾大学法学(商法)博士。東京と北京の大手渉外法律事務所での執務経験を経て、2014年に深センで広東深秀律師事務所を開設。2020年春に広東卓建律師事務所深セン本部にパートナーとして加入。華南地域の外国系企業を中心に幅広い法務サービスを提供。主な業務領域は、外商投資、M&A、労働法務、事業再編と撤退、模倣品対策、紛争解決など。

 

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