目から鱗の中国法律事情 Vol.42

2020/04/08

中国の債権譲渡(契約の譲渡・債の移転) その3

 前回までで、中国の債権譲渡(契約の譲渡)のうち、中国の契約法(中国語原文は「合同法」)第79条で、債権譲渡が禁止されている場合の「当事者の約定で譲渡しないとした場合」までを見ました。今回はこの続きです。


P26 Lawyer_735法律の規定により譲渡できない場合

 債権譲渡ができない債権の一つに、「法律の規定により譲渡できない場合」が規定されています。これは具体的には中国の契約法第272条第2項後段の「請負人は、その請負った建築作業の全てを第三者にさらに下請けさせ、またはその請負った建築作業の一部をそれぞれ第三者に下請けさせてはならない」との規定などが挙げられます。つまり、建築は大規模なもので後々ビルの倒壊など社会的危険を伴う可能性があり、責任問題に発展するからその建築する権利を譲渡することなく、最初に請負った者が責任をもって建物を完成させろということです。

 

債権譲渡の方法――合意と通知

 債権譲渡が禁止されている債権でなければ、債権は債権の譲渡人と譲受人の合意で譲渡することができます。ここで重要なのは、あくまで債権を譲渡する人と受け取る人の合意であって、債務者の合意は関係ない点です。
 しかし、債務者にとってみれば、突然債権譲渡によって自分が支払う相手が変わっていたら驚きますし、誰に債務を支払えばいいのか分からなくなります。そこで、中国の契約法第80条第1項は「債権者の権利の譲渡は、債務者に通知することを要する。通知がない場合、当該譲渡は債務者に対して効力を生じない」と規定しています。つまり、債権譲渡は債権の譲渡人と譲受人の合意で成立するが、債権の譲渡人は債務者に債権譲渡があったことを通知しなければ債務者との関係では債権譲渡の効果が発生しないのです。
 ここではまた債務者に通知をすることになっているのが債権の譲渡人であるというのもポイントです。譲渡人は、債務者から見た場合、「債権を持っているはずの人」であり、その人が「債権を譲渡した」と言っているなら信頼ができます。譲受人が「私が債権を譲り受けた」と言ってきても、債務者から見れば「誰ですか、あなたは」としか反応できません。
 また、中国の契約法第80条第2項は「債権者は権利を譲渡した通知を撤回することができない。ただし、譲受人の同意を得た場合はこの限りではない」と規定しています。これは、債権を譲渡したと通知したり、撤回したりを繰り返すと債務者が誰に債務を支払えばいいのか混乱するからです。しかし、債務者がそれを理解し、同意すれば問題はないためこのような規定が置かれています。(続く

 


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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