尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.17

2020/03/18

紛争解決条項

国管轄の合意とは

 契約書には、その契約でトラブルが起き、話し合いで解決できない場合、どこで裁判するかを記載することが通常です。これを、「管轄の合意」と言います。

 管轄の合意をする場合、自分の住所に近い裁判所を選択した方が有利です。例えば東京と大阪であれば、裁判の度に相手側に出向かなくてはならず手間がかかるため、裁判をためらうかもしれないからです。東京と大阪の場合は日帰りできるため、さほど大きな差はないかもしれませんが、これが国際取引になると大きな違いになってきます。裁判の度に相手国に行って、日本と制度の違う裁判所で外国語で裁判を行なうということになると、当事者にとっては大きな負担です。

 

中国での判決の承認

 中国で裁判することを避けるために、日本の裁判所の管轄合意をすれば、貴社にとっては有利になるのでしょうか。

 ビジネス法の分野では、日本の裁判所で勝訴判決を得たとしても、その判決を中国で執行することはできません。日中を含む多くの国では、ある国での勝訴判決を別の国で執行する場合には、執行地の裁判所の承認が必須です。但し、この判決の承認には、相手国が自国の判決を承認する場合のみ、自国も相手国の判決を承認する「相互の保証」という条件があります。日中両国は「相互の保証」がないとしているため、日本の裁判所で勝訴判決を得たとしても、これを中国の裁判所で承認、執行することはできないのが現状です。

 中国の裁判所を合意管轄とする方法もありますが、「地方保護主義」という問題が生じます。特に中国の地方裁判所では地元企業に有利な判決が出る場合があると言われています。

 

仲裁による方法

 裁判所ではなく、日本商事仲裁協会や中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)等の仲裁機関で紛争を解決する「仲裁」という方法があります。

 仲裁のメリットの1つは、日中が互いの国の仲裁判断の承認を定めた「ニューヨーク条約」を批准しているため、日中間で仲裁判断が基本的には承認される点です。

 もっとも、仲裁機関は国家機関ではないので、当事者が仲裁での解決に合意する必要があり、契約の締結段階で契約書に盛り込む必要があります。仲裁合意条項については弁護士の確認を経て約定することが望ましいです。

 

仲裁地をどこにするか

 日本企業としては日本商事仲裁協会での仲裁を定めることが有利となり、中国側としてはCIETACでの仲裁を主張してくることが多いです。

 妥協案としては、日本企業が訴える場合はCIETACにより、中国企業が訴える場合は日本商事仲裁協会によるという方法があります。この場合、互いに相手方を訴える場合のコストが大きいため、当事者の話し合いで解決しやすいというメリットがあります。

 また、シンガポール等の第三国の仲裁機関を指定する場合もあります

 


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Profile Photo尹秀鍾 Yin Xiuzhong
慶應義塾大学法学(商法)博士。東京と北京の大手渉外法律事務所での執務経験を経て、2014年に深センで広東深秀律師事務所を開設。2020年春に広東卓建律師事務所深セン本部にパートナーとして加入。華南地域の外国系企業を中心に幅広い法務サービスを提供。主な業務領域は、外商投資、M&A、労働法務、事業再編と撤退、模倣品対策、紛争解決など。

 

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