目から鱗の中国法律事情 Vol.40

2020/02/12

中国の債権譲渡(契約の譲渡・債の移転) その1

 債権とは、「ある人がある人に何かをすることを要求する権利」を言います。例えば、八百屋さんにお金を払ったので、「その大根を引き渡しなさい」と請求する権利、以前お金を貸したので「○○円を返しなさい」と請求する権利などを債権と言います。法律上は、債権も財産の一形態ですので、譲渡することができます。これを債権譲渡と言います。中国では債権譲渡を「契約の譲渡(中国語原文では「合同転譲」)」と呼ぶ場合もあります。今シリーズでは中国の債権譲渡(契約の譲渡)について見ていきましょう。

 

債権譲渡(契約の譲渡)とは
債権譲渡とは、先に説明したように債権を他社に譲渡することです。例えば、AさんがBさんに100万円支払う義務を負っていたとします。そして、BさんはCさんに100万円支払う義務を負っていました。すると、Bさんから見るとBさんはAさんから100万円受け取って、Cさんに100万円支払うことになります。ならば、BさんはAさんに「100万円支払いなさい」と言える債権をCさんに100万円を支払う代わりに譲渡すれば、単にAさんがCさんに100万円を支払うだけで債権関係が処理できるので便利です。また、この場合、BさんにAさんに100万円請求する債権以外に財産がない場合、この財産で支払おうと考え実行することもよくあることでしょう(先に述べた通り、法律上債権も財産であり、金銭の代わりに支払い能力を持つものなのです)。

なぜ「契約の譲渡」と呼ぶのかことがあるのか?
中国では「債権譲渡」という表現を使わず「契約の譲渡」という表現を使う場合があります。実は、中国では「債権」とか「債務」という用語を一般的には使っていませんでした(「債務」は「債権」の反対で、「○○を支払わなければならない」という義務です)。債権や債務と言った瞬間、一方的に権利を主張するニュアンスが強くなりすぎると中国法は考えていました。売買契約を締結した場合、売主は代金を請求する権利と品物を引き渡す義務の双方を持つなど、実は債権と債務は同時に発生しているのです。
このため、中国は「債権」や「債務」と分けて考えるのは適切ではなく、「債」という用語でまとめて表現しました(中国の民法通則第84条。新法である中国の民法総則第118条では「債権」という用語を使っています)。このため、中国では「『債権』譲渡」という表現ができない時期がありました。そのため、中国では「契約上の権利」を移転させているという意味を込めて「契約の譲渡」と呼ぶ場合があるのです。(続く)

 


高橋孝治〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員

中国法研究を志し、都内社労士事務所を退職し渡中。中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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