目から鱗の中国法律事情 Vol.39

2020/01/08

中国の労働組合(工会)その3

前回までで中国の労働組合(工会)は、日本の労働組合と大きく異なるということを見てきました。しかし、日本の労働組合と中国の工会が異なる点はまだあります。今回は、その点である工会費について見ていきましょう。

工会費
工会費とは読んで字のごとく、工会を運営するための費用です。日本の労働組合では組合費は基本的に組合員からの徴収でまかなっています。日本では労働組合に使用者が経理上の援助をした場合、その団体は労働組合ではないとされています(日本の労働組合法第2条)。それは、使用者から援助された金銭で労働組合の運営をまかなった場合、労働者の権利保護のために使用者と闘うことが難しくなり、労働者保護が実現できなくなるおそれがあるからです。
しかし、中国は異なります。工会法第42条は「工会の経費は、(一)工会会員の納付した会費、(二)工会組織を作った企業、事業単位、機関が毎月全労働者の給与の総額の100分の2を工会に納付する経費、(以下略)」と規定しています。つまり、工会は、最初から会社など(使用者)からも金銭を得ることを前提としているのです。
この原因は、前回までで説明したことと同じです。つまり、中国国内の事業体は全て国有であり、全ての労働者を雇用しているのは国家で、社長(董事長)と言えど国家に雇われている労働者、すなわち雇われ社長であるという前提です。この前提のため、工会に社長が加入することもでき、工会は労働者を絶対的に保護するものではなく、労働者と社長双方を説得し、時には社長側の意向に沿って労働者を説得することもあるわけです。すると、社長は雇われ社長に過ぎず、労働者の同僚ともいえる存在であり、工会は労働者の保護を全面的に行うわけではないのであれば、工会は会社からの金銭的支援を受けても何ら問題ないことになります。

中国の労働組合(工会)を見て
 今シリーズでは、中国の労働組合(工会)について見てきました。日本の労働組合とは大きく異なっていることが分かったかと思います。社会主義国というのは、一般的に社会主義改造をするためには、労働の仕方、土地の取り扱い方、女性の取り扱い方をまず伝統的な手法から特に大きく改革します。
このため、中国で労働関係を見るときには、「日本と大きく異なっている点が特に大きな分野である」ということを強く意識する必要があるでしょう。ところで、今シリーズで何度も述べてきました「全ての事業体が国有で、社長は全て雇われ社長」という前提は現在の中国には実態としてはないといえます。しかし、中国は、工会に関しては社会主義労働観の前提に立っているという基礎理論を変えないため、現実とはギャップがあるといえます。

 


高橋孝治〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員

中国法研究を志し、都内社労士事務所を退職し渡中。中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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