尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.13

2019/10/16

契約書作成の重要性

海外企業と取引を経験している企業の方でしたら、証拠を残すために取引数量、価格等をメールやファックスでやり取りする場合も多いと思います。確かに、この方法を採れば「言った」「言っていない」というトラブルは回避できそうですが、やはり契約書という形で書面を作成するべきです。そして、契約書作成の重要性としては、以下3つあります。


①紛争時の唯一の拠り所
契約書の形にすることで交渉の段階では気づかないさまざまな問題点を予め明確に定められます。例えば、海外への輸送中に商品が紛失したとします。紛失について売主、買主双方とも過失がない場合、誰がその紛失を負担すべきでしょうか。このような問題を「危険負担」と言います。この問題を当事者双方とも意識せず、合意していないケースが見られます。製品販売契約書等では危険負担の定めを置くのが通常であり、正式な契約書を作成すれば、その過程でこの問題への対応を定めることができます。また、別の例で、中国企業に製品を納入し、技術指導を行なうことを合意したとします。この場合、日本企業は技術指導は別料金と考えているが、中国企業は無料のアフターサービスと考えている可能性もあります。技術指導と技術指導料の支払に関する条文を契約書等で規定することでこのような事態を避けることができます。


②契約書の雛型作成のメリット
契約書を作成すべきもう1つの理由は、貴社の契約書の雛型を予め作って提示する方が有利だという点です。海外企業と取引を開始する場合、相手方から「これがいつも使っている契約書です。」と契約書を提示されることも多いです。このような契約書は相手方に有利になっているのが通常です。もちろん、修正という形で貴社の要望を反映することはできます。しかし、このような修正では、個々の条項を貴社に有利な内容に変えるには、エネルギーを要します。そのため、最初から貴社の雛型を提示した方が交渉が有利に進むことが多いです。最初は多少の費用がかかっても、貴社で海外取引をする際に使用する契約書の雛型を用意することをお勧めします。


③法律で契約書を要求される
中国では、法律で契約書が要求されている契約や、契約書がないと送金を受けられない場合があります。例えば、中国企業に特許やノウハウなどのライセンスを行なった場合、ライセンス契約を主管部門で登記することが必要とされています(技術輸出入管理条例第18条)。登記がないとライセンスフィー(ロイヤリティ)を海外に送金することができません。このような場合は、送金を受けるためにも契約書を作成する必要があります。

*次回のテーマは「取引相手の信用調査」です。


Profile Photo代表弁護士、慶應義塾大学法学(商法)博士。西村あさひ法律事務所(東京本部)、君合律師事務所(北京本部)での執務経験を経て、2014年から深圳で開業、華南地域の外国系企業を中心に法務サービスを提供。主な業務領域は、外国企業の対中国投資、M&A、労働法務、事業の再編と撤退、民・商事訴訟及び仲裁、その他中国企業の対外国投資など。

 

 

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