尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.10

2019/09/04

抜け駆け商標登録対策

近年、ネット等を使って外国ブランドの情報を入手しやすくなっているため、外国ブランドを知った人が中国で先に商標登録してしまうトラブルが増えています。このような抜け駆け商標登録の事案では、実際に自分のビジネスにその登録商標を使う場合もありますが、最初から外国のブランド保有者に高値で買い取らせる目的で登録する事例もあります。

では、実際に商標を抜け駆け登録されている場合、法律上どのような手段を採ることができるのでしょうか。

登録商標の無効宣告を申立てるには下記(1)〜(3)の法定事由に合致する必要があり、商標の登録日から5年以内に行う必要があります。また、悪意で著名商標を登録された場合は、著名商標所有者は前記5年の時間制限を受けないとされます(2019年改正《商標法》45条1項)。

 

(1)他人の著名な商標を無断で登録
「著名商標」は以下の要素を考慮して判断(認定)されます(同法14条)。

a.関連する公衆の当該商標に対する認知度

b.当該商標の継続的な使用期間

c.当該商標のあらゆる宣伝活動の継続期間、程度と地理的範囲

d.当該商標が著名商標として保護された記録

e.当該商標が著名であることのその他の要素
著名商標を抜け駆け登録された場合の無効宣告事由は次の2つになります(同法13条)。

①同一又は類似商品について中国で未登録の他人の著名商標を複製、模倣又は翻訳して商標を登録し、混同しやすい場合

②同一でない又は類似していない商品について中国で登録済みの他人の著名商標を複製、模倣又は翻訳して商標を登録し、公衆を誤認させ、著名商標登録人の利益が損害を受けかねない場合

 

(2)他人が既に使用し一定の影響力がある商標を不正な手段で抜け駆け登録
単に使用しているというだけでは無効宣告の事由にはなりません。不正な手段により、他人が既に使用し、消費者の間で一定の影響力を持っている商標を抜け駆けして登録していることが必要です(同法32条)。

 

(3)特定関係者が先に商標を無断で登録
代理人又は代表人が授権を得ずに、自己の名義で被代理人又は被代表人の商標を登録した場合(同法15条1項)や、同一又は類似商品について登録した商標が、他人の先に使用した未登録商標と同一又は類似しており、当該登録者が当該他人と取引関係又はその他の関係(親族関係や労働関係等)を有するため当該他人の商標の存在を知っている場合(同条2項)は無効宣告の事由になります。
なお、正当な理由がなく連続して3年間使用していない登録商標については、登録商標取消申立の対象となります(同法49条2項)。
法律上の手段により、登録商標を取り消す又は無効宣告をするのは簡単ではないため、将来的に中国でのビジネス展開を考えている場合、早期に中国で商標出願をすることが重要です。


Profile Photo代表弁護士、慶應義塾大学法学(商法)博士。西村あさひ法律事務所(東京本部)、君合律師事務所(北京本部)での執務経験を経て、2014年から深圳で開業、華南地域の外国系企業を中心に法務サービスを提供。主な業務領域は、外国企業の対中国投資、M&A、労働法務、事業の再編と撤退、民・商事訴訟及び仲裁、その他中国企業の対外国投資など。

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