目から鱗の中国法律事情 Vol.25「中国の手形小切手の概要 その5」

2018/11/07

先月まで4回にわたり、中国の手形小切手の概要と5種類の手形小切手の説明をしてきました。今回は中国の手形小切手の総括をしたいと思います。

 

送金機能としての手形小切手と不渡の制裁

5種類の中国の手形小切手は、基本的に銀行で手形小切手の作成(振出)か引受をしてもらわなければなりません(商業承兌匯票(商業引受為替手形)はこの例外ですが、流通数は極めて少ないです)。つまり、本シリーズ第1回でも述べましたが、基本的に日本のような「他者への債権を確かに譲渡した」という確認などの機能はなく、送金機能が主な目的となっているわけです。この点は中国では預金金額を超える小切手の振出が禁止されていることにも表れています。逆に言えば、中国の手形小切手は銀行の確認を基本的に得ているため、不渡を出すことが少ない安全な証券と言うこともできます。これを反映してか中国では匯票(為替手形)、本票(約束手形)には不渡に対する制裁がありません。ただし、支票(小切手)については不渡を出した場合、額面の5%の過料などの制裁がなされます。

なぜこのような制度になるのかと言えば、これも本シリーズ第1回で述べましたが、中国の手形小切手は銀行を通じて中国国内でどのような取引が行われたのかを政府が管理するためのものだからです。日本などの手形小切手とは目的が異なるのです。このため、かつては(現在と物価は違いますが)企業が30元以上の支払いを行う際は必ず小切手を用いなければならないという規定もありました。

 

手形小切手が無効になる場合

手形小切手にはそれぞれ「必ず記載しなければならない事項(絶対的記載事項)があり、それを一つでも欠くとその手形小切手が無効になります。具体的な絶対的記載事項は5種類の手形小切手でそれぞれ異なります。

また、中国では異なる金額が2つ以上記載されていた場合、その手形小切手は一律に無効になります(票拠法第 8条)。このような点にも注意しておきましょう。

 

※本シリーズは筆者(高橋孝治)が2014年6月19 日に北京和僑会「法律・労務・税務研究会」内で講演した「中国手形小切手法の基礎知識」の内容を再構成したものです。

 

 


高橋孝治〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
中国法研究家、北京和僑会「法律・労務・税務研究会」講師。中国法の研究を志し、都内社労士事務所を退職し渡中。中国政法大学博士課程修了・法学博士。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)。詳しくは「高橋孝治中国」でネットを検索!

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