本土関連のエクスポージャーが香港の銀行に与える余波

2018/08/15

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7月中旬に格付け大手のフィッチ・レーティングスが行った会議によれば、一部銀行の不良債権比率がシステム全体の平均を上回ったことを考慮すると、中国関連のエクスポージャーは、香港の銀行にとって最大の集中的リスクである可能性が高いという。

同社のディレクターであり、日本、香港の銀行担当の責任者であるサビーヌ・バウアー氏の視点はこうだ。

香港の銀行は管理体制が整っている上に資本が潤沢で、同社の最新の銀行格付けにおいてもポジティブな評価がされている。だが、香港内の銀行における中国関連のエクスポージャーは、3月までに前年同期比14%増の7.8兆香港ドルとなり、GDP比2.7倍となる見通しだ。

これまでのところ中国関連のエクスポージャーの大半は損失を回避できたが、一部銀行はローンの悪化を経験し、中国関連の不良債権比率はシステム全体の平均を大幅に上回っている。

中国大手の銀行は国有企業との結びつきが強いが、その他の銀行にとっては、民間企業への貸付が最も重要な銀行以外のエクスポージャーであり、合計の40~50%を占める。戦略や顧客基盤、成長サイクルの実行と段階が異なることから、銀行間の差異は大きい。

香港の不動産市場についてだが、香港の銀行におけるプロパティリスクの上昇は、小規模な経済と不動産セクターおよび中国本土との強い結びつきによるものだ。同社によれば、激しい圧力マージンの競争で不均衡が高まっており、商業貸付および住宅貸付の成長率は、3月18日までの12ヶ月間、高いままであった。

香港における不動産価格の上昇は、民間セクターや銀行の準備金、および担保評価を押し上げるほど影響が大きい。逆に急激な価格下落は市場心理を傷つけ、不均衡を露呈させる可能性がある。

同社は、香港の銀行は金融引き締め政策にやや弱いと見ている。地域の金融センターとして、外貨のエクスポージャーの増大は、投資家達の心理や市場の変動を脆弱にする。

そして民間部門のレバレッジが高いことに起因する信用リスクは、金利が急上昇した場合には借り手の再支払能力を引き上げる可能性がある。新たな借り手の債務返済率に影響するため、銀行に対するリスクは限定的でなければならない。

逆に、同社の中国の銀行担当者から見た概況はどうなのか。同社のシニア・ディレクターであり中国の銀行担当の責任者であるグレース・ウー氏にも話を聞いた。

中国当局は2018年4月の最新の資産管理規則など、特に投資商品に対するシャドーバンキング活動に関してのリスク管理規則を強めている。同社は、金融セクターのリスクを当局が認めるというコミットメントを認識し、それは金融システムの安定性を改善するために適切なステップとしている。

中国における信用貸しの伸びは、特にノンローンの与信や昔からリスクが高い部門への貸出については減速しているが、全体的な債務レバレッジとしては低下しておらず、中国の銀行は不動産モーゲージローンと政策変更による不動産価格の下落を引き続き注視する必要がある。

構造的な財務リスクよりも成長を優先する、という当局のコミットメントをカバーする確実なエビデンス(実証済みの記録を含む)がある場合、銀行の生存率格付けは格上げされる可能性がある。そうなれば銀行は独立した信用力を得るが、もし政策が経済的不均衡や財政的脆弱性等の危機を招く場合、銀行の生存率は格下げされる。

2017年時点で家計債務は、中国の銀行システムにおける新たな信用貸付の最大の構成要素となっており、引き続き家計の急速な拡大が中国の銀行において中長期的なリスクとなる可能性がある。金融機関は、それを相殺するための戦略を立てる必要に迫られるだろう。

中国農業銀行、中国銀行、中国建設銀行、中華工商銀行の4大銀行は、すでに世界的に重要な銀行(G-SIB)として認証されており、同社の推測によれば、近い将来中国交通銀行も1~2年内にG-SIBになる可能性が高い。

5大銀行は制度内で最も資本化されており、資本水準は国内の規制最低額を上回っているが、内部資本の生成は現在の水準の資本比率だけをサポートしている。彼らの多くは、資本増強を促す当局の努力に従い、短期的な資金調達計画を発表したが、中国のG-SIBが最低限の総損失吸収能力(TLAC)と2015年までのバッファー要件を達成するには、かなりの量の追加資本が必要となりそうだ。

テキスト、画像:Hilary Kwan 翻訳:Shoko Masuda

 


Fitch Ratings
ウェブ:www.fitchratings.com

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