中国人事労務「能力不足による契約解除」インテリジェンス

2014/01/27

中国人事労務のエッセンス

第45回「労働関係処理のポイント(3)」

前回は「労働関係処理のポイント(2)」と称し、具体的な解雇シナリオの策定などについてご説明しました。今回からは具体的な事例を紹介し、解雇を行う際に何をどのように考え、進めていくべきかについてご案内します。今回の事例は「能力不足」による契約解除です。

■事例(能力不足)

2012年10月1日に営業職として入社した社員A。労働契約期間は2015年9月30日までの3年契約。勤務態度は良いものの、パフォーマンスが悪く、再三にわたる指導も効果がなく、グループ内でも浮いた存在に。会社は能力不足による会社都合解除を検討。

■会社方針の確定

1.解雇事由の確認  再教育や配置転換などによる改善の余地はないかどうか、また、解除した場合と解除しない場合それぞれの組織への悪影響などについて、重要性と緊急性から検討します。

2.適用法規の確認  通常、能力不足による会社都合解除(労働契約法第40条(二)項)、あるいは協議一致による契約解除(労働契約法第36条)を用いることになります。

3.解雇可否とリスク検討

日常からの評価フィードバックにより、本人の自覚があるか否かが大きなポイントになります。自覚がない場合はサプライズが起こり易く、トラブルとなる可能性が高いとも言えます。また、能力不足を証明する証拠があるかどうかについても十分な確認が必要です。そして、本人の性格・年齢・出身地・家族構成・社内人間関係などの特性を把握することも重要です。特に年齢や家族構成は、協議解除に応じる可能性を測る上で重要な要素と言えます。その他、女性三期や医療期など、契約解除できない状況にないかどうかなども事前確認が必要です(協議解除は可能)。

協議解除に応じてもらえない場合、会社からの一方的な契約解除通知を行うことになりますが、その場合、従業員が労働仲裁を申請する可能性も残ります。会社として労働仲裁や法院での争いも辞さないかどうかなども含め、総合的な検討が必要と言えます。

4.補償プランの確定

能力不足による会社都合解除の場合、30日前に通知するかあるいは1ヶ月分の賃金相当の代通知金が必要となります。また、法定経済補償金以外の+αを支給するかどうか、その場合の限度額などもあらかじめ決めておく必要があります。基本は法定通りに進めるべきではありますが、支給する場合、過去の社内事例や従業員期待値などを基に検討します。その他、賞与や年次有給休暇の取り扱い、また未払い金の有無などについても確認を行います。

■解雇シナリオの確定

1.ストーリーの作成

能力不足による会社都合解除は証拠と正しいプロセスが必要です。仲裁や裁判になる可能性もあり、できる限り協議解除の方向で進めることが望ましいと言えます。協議の場面では面子の問題もあり、相手を批判・非難することよりも、「たまたま当社に合っていないだけであり、他社では活躍の場はいくらでもある」といったように、むしろ適性の有無にフォーカスすべきと考えます。まずは協議解除を提案し、どうしても協議に応じてもらえそうにない場合、あるいは補償金の上乗せを要求されるなどした場合に能力不足による会社都合解除を通知する、といった慎重な対応を採ることが望ましいのではと考えます。

2.役割分担

誰が何の役割を果たし、どのように進めるのかを事前に明確化しておきます。通常、説明者は直属の上司が担うべきですが、人間関係が悪い場合などは本人が信頼を寄せている他者にアサインすることも検討します。

3.通知場所と日時

面子の問題もあるため、会議室などの個室で進めることが一般的と言えます。金曜日の夕方という鉄則もありますが、協議が時間切れになることも多く、時間を要することが予想される場合は、平日の午前から行うことも検討します。

4.想定問答作成

想定される質問に対する回答を事前に用意しておきます。「具体的にどこが能力不足か?証拠を提示して欲しい」といった質問を受ける可能性は高いと言えます。また、これまでの会社に対する貢献といった感情面から来る意見や、補償内容など金銭面にまつわる質問を受ける可能性も高く、これらについても事前に回答を想定しておく必要があります。一旦方針を決定した後は軸をブラすことなく進め、万一緊急事態が発生した際も、事前決定しておいた対応策を確実に実行に移すことが求められます。

次回は「素行不良」による契約解除についてご案内します。

北尾直樹 インテリジェンスアンカーコンサルティング深セン 総経理
北尾直樹

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