空港から都市計画まで「ドップラーライダシステム」

2016/05/23

2016年は三菱電機が香港で事業を起こして50年を迎える節目の年になる。社会インフラ事業部は「Dramatically Change」をスローガンに社員一人ひとりが自己改革に取り組み、新市場、新規顧客の開拓と新技術の導入に向けて日々邁進している。さらに、三菱電機100周年を迎える2020年には、同事業部は売上100億円を目指して事業を拡大していくという目標を掲げている。
今回はその中で、同事業部が香港天文台に納入した風計測システム「ドップラーライダシステム」を紹介する。
三菱電機(香港)社会インフラ事業部 総経理 鳥海寿郎(とりうみ としお)氏を始め、同副総経理 蘇志文氏(Mr.George So)、同市場開拓推進室マネージャー 古井伸一氏、同技術部 部長代理 楊紹倫氏(Mr.Samuel Yeung)にお話を伺った。

屋上ドップラーライダシステム(以下、ライダシステム)とはどういうものか、読者の方々にわかりやすく説明頂けますか?
古井:ライダとは「Light Detection And Ranging」の略で、安全な光レーザーによって大気中のエアロゾル(目に見えないほどの塵)の動きを検知して、目には見えない風の動きをデータ化、画像処理して、その情報を航空機や空港の管制塔に送る装置です。気象の観測機器の中では、雨や雲を観測する気象レーダーと違い、晴天時の風の変動を検知出来るシステムとして、近年欧米を中心に注目されている装置です。

ライダシステムは、香港国際空港以外の近隣アジア諸国で納入されている実績はありますか?
古井:既に、羽田、成田の各国際空港に納入実績があります。韓国にも今後、納入予定です。ライダシステムは、もともと大学などの大気の研究目的から利用され始め、ここ1、2年は空港利用などの実用目的で使用されるお客様からのご要望が多くなりました。現在まで9式の納入実績があります。ライダシステムは風の変化を見るというコンセプトから作られたものですが、昨今、世界各国で乱気流が原因とされる航空機事故が注目されるようになり、ここ数年でさらに需要が増えてきました。

これまでライダシステムの設置、納入にあたって、特に印象に残っている出来事はありますか?
楊:お客様である香港天文台や空港関係者等、多くの関係部門の方々と調整を繰り返しながら進めていかねばならず、非常に手間と時間がかかる作業ですので、一つ成し遂げた時には充実感があります。空港立ち入り許可を得るまでには3種類ほどの書類申請を行い、これには約1か月間かかりました。ライダシステムの据え付け作業の期間としては、7~10日間ほどですが、わずか一晩で作業を終えないと空港の運営や次の工事工程に支障をきたすような困難な状況もありました。
鳥海:今回の経験は、今後の事業を拡大していく意味でも、貴重な経験になると考えています。据付試験を行う際には、兵庫県尼崎市にある三菱電機(株)通信機製作所から試験員や据付指導員が香港へ来て、ナショナルスタッフと一緒になって現場作業を行いました。作業期間中に調整を必要とする事象や課題が発生するのですが、お互いに上手く連携しながら、作業工程への影響を最小限にとどめる事が出来たことは、良い経験になりました。今後はナショナルスタッフだけでも、こうした据付、試験調整が行えるようにしていきたいと思っています。

今後のライダシステムの展開はどう考えていますか?
古井:今回、ライダシステムを発注いただいた香港天文台が要求する技術レベルや、書類手続きであったり、作業安全管理のルールなど、一連の課題をクリアして、納入まで至りました。そういった経験は今後の大きな財産になると考えています。今後は香港だけに留まることなく、中国の主な拠点である北京や広州、深圳、またマカオなど、次なるステップを考えています。
鳥海:香港国際空港を今後は、空港向けライダシステムのモデルケースとして、広東省や北京、上海などの大都市の空港関係者、気象関係者との交流等を通じて、ここ香港から積極的に情報発信をしていきたいと考えております。いずれにしましても、香港国際空港向けの案件で経験した事を活かしたいです。

ライダシステムは、空港だけでなく、他にどのような業界に応用することが出来るとお考えですか?
古井:空港利用に並行して力を注いでいる分野としましては、再生エネルギー分野にあたる風力発電分野があります。エコにも繋がる話ですが、ウィンドファームを建設する際に、どういった場所にあれば最適な発電量が得られるのか、ライダシステムを使う事で設置計画に役立ちます。また都市計画などにも応用できると考えています。香港では高層ビルが非常に多いですが、ビルを建設する時に、高層だと風の影響を非常に受けやすくなります。それをライダシステムを使う事で、あらかじめ風の計測をしながら、ビルの建設を安全に進めていくことが可能になります。いずれも日本では、そういった分野での活動が既に開始されています。また、ショッピングセンターの建設時などは、周囲に風による悪い影響を及ぼさないように設計をする目的にも使われています。
マップ

ライダシステム導入後、香港に与える知名度、認知度などに関して、具体的な目標等はお持ちですか?
鳥海:家電製品は日常生活で使用されていたり、皆さんの目に見える所にあるのでわかりやすいのですが、ライダシステムはBtoB(企業間取引)向けの製品であり、一般の消費者には目に付きにくい製品であると思います。それをアピールする場をもっと増やしていきたいです。例えば、香港では電気学会でライダシステムの紹介をする事で、そこで話を聞きに来られる電力会社や香港地下鉄の関係者の方々に知ってもらうことが出来ます。そういった機会を色々な展開に結び付くきっかけにしたいと考えています。

三菱電機グループが掲げるスローガン「One MELCO」に関しまして、読者の方々にわかりやすく説明頂けますか?
蘇:香港地域では、5つの事業分野(社会インフラ、半導体、エレベーター・エスカレーター、空調・家電、ファクトリーオートメーション)がありますが、三菱電機(香港)では自分が担当していない製品でも、それぞれのお客様に積極的にご提案させていただくように心がけています。担当分野に留まらず、三菱電機社員の一人として、こうした意識はとても大事だと考えています。社内のショールームを見ていただくと、三菱電機の製品を可視化していますし、他事業の製品の事も理解出来るようになっています。そうした意識、環境によって三菱電機(MELCO)グループみんながひとつになって事業を進めていく「One MELCO」に繋がると考えています。

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