SDRの構成通貨になった人民元の運命。Borderless Management & Investment Ltd.

2016/01/06

2015年11月30日、IMF(国際通貨基金)理事会において人民元(RMB)のSDR構成通貨入りが決定された。実際に人民元がその役割を果たすのは来年2016年の10月1日からとなる。
「SDR(Special Drawing Rights=特別引出権)」というのはIMFが加盟国に渡す仮想通貨である。もし加盟国がなんらかの理由で外貨不足に陥ったときはSDRを別の加盟国に譲渡することにより現在の構成通貨である米ドル(USD)、欧ユーロ(EUR)、英ポンド(GBP)、日本円(JPY)などの国際決済通貨を受け取って外貨準備高を増加させることができる。
SDR構成通貨の見直しは5年に一度で各通貨の構成比率はその通貨の発行国の輸出規模や国際的な決済での利用状況を勘案して決定する。現在の4通貨の構成比率は米ドルが41.9%、欧ユーロが37.4%、英ポンドが11.3%、日本円が9.4%である。これに人民元が加わる2016年10月以降は米ドルが41.73%、欧ユーロが30.9%、人民元が10.92%、日本円が8.33%、英ポンドが8.12%となるとされる。
SDRの構成通貨になるためには大きく分けて二つの条件がある。ひとつはその通貨の発行国の経済規模や貿易量。もうひとつは通貨が国際市場で自由に取引ができるかどうかである。
前回構成通貨の見直しがあったのは2010年。そのとき中国は十分な経済規模を備えていると言えたが、人民元は自由に取引が可能な通貨であるとは言えなかった。人民元には中国本土内のみで取引可能なオンショア人民元(CNY)市場と香港を中心とした本土外で取引可能なオフショア人民元(CNH)市場という二種類の市場が存在している。このうちオフショア人民元は国境をまたいだクロスボーダー決済が可能で為替レートの変動に制限がないが、オンショア人民元の取引は管理フロート制という事実上のドルベッグ制を用いていて、中央銀行である中国人民銀行の完全な管理下にあり、外貨との両替金額や国外への持ち出しなどに厳しい規制がある。だから2010年の見直しのとき、人民元は採用されなかったのである。
ところが最近中国はこのSDR構成通貨入りの意思を明確に打ち出しており、今年の8月11日からの3日連続の切り下げやその後逆に切り上げに転じたのはこの目的達成に向けての最終的な調整であったと言われている。人民元が構成通貨に採用されたということで中国は正式に新制度での運用がはじまる来年の10月までにドルペッグを外して、資本取引の自由化も進めなければならなくなるはずだ。ただそうして人民元が仮に国際為替市場で自由に取引されるハードカレンシー(国際決済通貨)にまで昇華すれば他国にとって人民元は正式な外貨として備蓄されるようになるだろう。
これまで中国当局が管理していた人民元は信用度が低かったため、中国との貿易の決済はほとんど米ドル建てでおこなわれていた。これは取引としては非効率的で、例えば日本と中国の貿易が米ドル建てで行われるということは日本円から米ドル、米ドルから人民元というふうに2回の為替取引コストが発生することになり、為替変動によりリスクも2倍になる。
人民元が自由化されて国際決済通貨となれば人民元建ての取引も容易になる。自国と中国との貿易に米ドルが介在する必要がなくなり、逆に自国通貨と人民元との直接取引が拡大することになるだろうから、中国と取引する企業は自国通貨と人民元の間の為替レートを変動によるリスクを避けるために米ドルを人民元に持ち替えることことにもなるだろう。将来の為替レートの変動に対するヘッジのための為替予約なども必要になってくるので人民元の国際的需要はますます高まってくる。貿易を通じて中国との結びつきが強い国の中には国内の物価を安定させるために自国通貨と人民元を連動させる国が出てくるかもしれないし、そうなれば為替レートの安定のために行う市場介入用に外貨準備として人民元を確保する動きが促進されることも考えられる。

玉利さま玉利将彦 (タマリ マサヒコ)
上海と香港を拠点に活動し、中国在住歴は18年に渡る。
香港の証券取扱免許(SFC)と保険取扱免許(PIBA)を保有する資産運用アドバイザーとして、顧客のライフプランに即した投資計画の立案及び積立ファンド・保険の仲介、HSBC香港BOOM証券・中国銀行など海外の有名金融機関の口座開設・運営サポートをおこなっている。

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