女性起業家インタビュー:着物のリクリエイト事業

2015/12/31

青山さん_1日本の伝統文化のひとつである「着物」。
青山奈々さんは起業し、着物のリクリエイトする事業に取り組む。
3人の子どものお母さんである青山さん。
どうしてこの仕事を?
仕事と家庭とのワーク・ライフ・バランスはどのように取っているのだろう。
青山さんにお話を伺った。

香港暮らしは9年になられるそうですね。
はい、2007年に次女が生まれてまもないタイミングで、香港に来ました。香港行きは、まったく予想もしていなかったことで、母親は「しんどくなったらいつでも帰っておいで」送り出してくれましたが、父親は最後まで猛反対。小さな3人の子どもを連れての海外暮らしを心配したのでしょうね。

お子さんの年齢をお伺いしてもいいですか。
長男が16歳、長女が11歳、次女が8歳になりました。日本では専業主婦でした。香港でも4年間主婦業に専念していましたが、こちらの生活にも慣れて、子育ても一息ついたので就職。コスメ販売会社でアシスタントとして2年半、会計事務所で秘書として2年間勤務しました。

会社勤めはいかがでしたか。
経営者である両親の影響を受けたのか、人の下で働くのは自分に合わないと感じましたね。両親は広島でマリーナを経営し、ヨットの管理や売買などを行っています。好きなことを仕事にしていた父を思った時に、私も最終的には、そういう道を選びたいと思い始めたのです。
決まった時間に寝て、起きて、出社する。みんなが当たり前にやっているルーティンをこなすことも得意ではありませんでした。睡眠も毎日6時間取れれば、寝る時間も起きる時間も決める必要はない。クリエイティブな仕事につき、アイディアが浮かび、製作が進む時間に仕事をする。自分の決めた目標期限までに、作品ができれば良し。――そんな生活が私の理想でした。
小さいころからいつかは起業したいと考えていましたが、アイディアややりたいことがまとまらず、これまでは起業に至りませんでした。

そんな夢がかなって起業。新しく始められた事業について教えてください。
着物をリクリエイトして洋服を作ったり、帯をリクリエイトしてバッグを作ったりする事業です。その他洋裁や編み物のワークショップなどを開催する予定です。

西陣織_1

西陣絣の制作のようす

洋裁は得意だったのですか。
洋服の型紙を作る製図方法には、文化式とドレメ式がありますが、私は広く普及している、文化式の洋裁技術を学びました。自分でデザイン、パターン作成、縫製までをできることができます。

起業のきっかけとなる出来事があったそうですね。
はい、昨年、父が末期癌で危篤という知らせが入り、日本へ飛んで帰りました。父は2ヶ月半の闘病生活の末に亡くなったのですが、私はその間、日本に滞在し日中は病院へ。でも、子ども達は香港にいたので、夜は特にすることがありません。そこで、母に和箪笥の中に、ほどいてリクリエイトしていい着物はないかと聞いたところ、「喪服がいらない」と。父も先が短いことだし、喪服を持って帰国していなかったので、家紋入りの喪服(着物)を、家紋入りの洋服に仕立て直しました。これが現在の事業の元ととなる、最初のきっかけとなりました。和服のリクリエイトを事業にしようとひらめいたのです。
3人の子どもの進学が控えていましたが、新しいビジネスを始める土壌が整った香港にいる今しか起業のチャンスがないと決意しました。

着物をリクリエイトして製品を生み出す苦労はありますか。
製品を反物から製作するのは簡単です。でもリクリエイトする場合、素材として使用するのは既に着物や帯になっている製品で、取れるサイズに制約があり、何でも自由に作れるわけではありません。それを製品化するためには、毎回パターンを起こさなければならないので、それが大変です。
でも、先ほどもお伝えしたように、私は本格的に洋裁を学んだので、直線のラインを特有とする着物の生地を使って、まったくイメージの異なるデザインを起こすことができるのが強みです。

子育ても楽しむために自宅をアトリエにされたそうですね。
はい、仕事と子育ての両立が難しいのは知っています。でも、子育てに携われる期間は残り10年位しかないでしょう。その時間を楽しみたいと思いました。
私は家にいても仕事をしていますし、家事と育児は主にヘルパーがやってくれています。でも、子ども達と一緒にいられるわずかな時間を、ギュッと詰まった濃い時間にして、信頼関係を築いていきたいですね。
母親は子どもの体調も声を聞くだけでわかるんですよ。働きに出てしまうと、夕方、学校から帰宅した子ども達の声を聞くことができません。でも自宅をアトリエにすれば、声などを聞いて、子どもの体調管理も自分ですることができます。

気分転換はどのようにされているのですか。
リフレッシュの源は子ども達と買い物です。子ども達といると活力がわいてきます。また何でも作ることが好きなのでレザークラフト、編み物、料理など仕事に飽きたら、何か作っています(笑)。レザーなどの素材は、深水埗(サムソイポー)で安く購入できます。料理は冷蔵庫に入っているもので作るのが得意です。家で、ようかんや手打ちうどんを作ることも。手打ちうどんは、用意した生地をビニール袋に入れてから足で踏むとコシがでます。子ども達にも手伝ってもらって、ワイワイガヤガヤ、楽しいひと時です。

今後の目標を教えてください。
着物は、手仕事で作られた日本にしかない素晴らしい製品です。これを、様々な文化や時代にあった製品に作り変え、世界で販売していきたいですね。着物は洋服と違って、夏用と冬用で仕立てが違いますし、四季の花や風物が描かれていて、季節感があるものも多いです。季節に合わせてファッションを楽しむマインドも伝えていけたら、と考えています。着物の細かい刺繍などの魅力も製品を通して伝えることができるでしょう。
産業振興のため、後継者が激減している西陣絣という伝統工芸の絹織物の世界への販売も企画しています。また、日本の伝統的な文様である「家紋」も世界に紹介していきたいと思案中です。どういったお客様に、どのようにアプローチするのかは、進行中ですので企業秘密です(笑)。
京都だけでなく、各地方の伝統的工芸品の生産者へ消費者のニーズを伝えたり、アドバイスしたり…。海外に住む私が、何ができるかを模索しながら日本の素晴らしい文化を世界に伝えていきたいですね。アイディアが次々とわいて、夢はどんどん広がっていきます。

西陣織_2

西陣絣のストール

最後に女性の皆さんへメッセージをお願いします。
「母親ってこうあるべき!」という常識はないと思います。各家庭で環境も違うので、それぞれのお母さんのスタイルで子どもたちに愛情を与えることができればいいのではないでしょうか。
香港では「元気な人たちはみんな働き、周りはそれをサポートする」というスタイルで、わが家もそれは同じです。突拍子もないことを言い出す母親に、合わせるわが子達は大変かもしれません(笑)。でも理由も聞かずに「右向け右!」で足並みをそろえてくれます。
子ども達も将来、好きなことに挑戦できるように、私自身がいい意味でも悪い意味でも見本となれればいいですね。「無謀の中の挑戦」ができる香港で子ども達と一緒に人生を楽しんでいきたいと思います。

製作:いとへんuniverse
西陣織の職人を中心に織物や手しごとを愛するメンバーが製作中のオリジナルシルク
フェイスブック:www.facebook.com/itohen.univers

青山さん_2青山奈々さん
広島県出身。古布クリエイトデザイナー。香港在住歴9年。来港後、4年間の専業主婦生活を経て、コスメ販売会社でアシスタントとして2年半、会計事務所で秘書として2年間勤務。2015年に起業。Creative Directorとして、和服のリクリエイト事業に取り組む。趣味は洋裁、レザークラフト、編み物、料理。家族は長男(16歳)、長女(11歳)、次女(8歳)。

Carpediem International Group Limited
◆和服リクリエイト…洋服、帯バック、その他小物
◆その他輸出入商品…スーパーカー、時計
電話:(852)2560-0520(日本語)
フェイスブック:www.facebook.com/carpediem.int

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