香港の水インフラを支える。酉島製作所のトリシマポンプ

2015/06/23

酉島製作所の「トリシマポンプ」

大埔頭配水ポンプ場のポンプ
大埔頭配水ポンプ場のポンプ(13台)

香港で生活する700万人が使用する水は70%以上が中国から送られてくる。その水を街の各所に届ける役割を担っているのが、日本のポンプメーカー、酉島製作所の「トリシマポンプ」だ。香港の下水道施設でも採用されており、上下水の9割がトリシマポンプで運ばれている。香港の現地法人、酉島泵香港有限公司プロジェクトエンジニアの澤理紗さんに、お話を伺った。

水インフラを支えるポンプ―。すぐにピンとこない人も多いかもしれない。ポンプは水に圧力を加えて、送り出したり、高い場所に汲み上げたりする機械。「ポンプを、血液を体中に送っている心臓に例えることもあります」と澤さん。心臓と同様に、水を必要な場所へ届ける働きをしているのがポンプだ。大流量の水を送る大型ポンプでは、水を吐き出すフランジの口径が2メートル以上のものもあるという。

澤 理紗

酉島泵香港有限公司
プロジェクトエンジニア 澤 理紗さん
ポンプの引き合いがきたら提案書・見積書を作成、受注したら本社と仕様をきめて製作・工程の管理などを行っている。駐在員として香港在住4年。小学生のときに香港で2年間暮らしたことがあるそう。オフィスでは駐在員の澤さん以外はみんな香港人。「誰も日本語を覚えようとしませんし(笑)、日系らしからぬ企業です」と澤さん。

 

 

香港の飲み水がどこから運ばれてきているのかを考えたことがありませんでした。

香港の水の7割以上は、中国の東莞にある川から運ばれてきます。香港の北部に、その川の水(原水)の玄関口となる「木湖(モッウー)送水ポンプ場」があります。原水はここからさらに沙田(シャーティン)や大埔頭(タイポータウ)など各地にある配水ポンプ場や貯水池に送られ、浄水場できれいな水(処理水)にした後、各地域へ。最終的には各家庭に配水されます。

トリシマポンプは、「木湖送水ポンプ場」や「大埔頭配水ポンプ場」などの上水道施設で使われています。

それとは別に、香港ではトイレを流すフラッシングウォーターに海水が使われています。その海水をとるためのポンプ場もあり、そこにもポンプを納めています。水道水とトイレの
フラッシングウォーターを運ぶポンプは香港政府水道局(WSD:Water Supplies Department)がお客様になります。これまでWSD向けには、50カ所以上のポンプ場に200台以上のポンプを納めています。

木湖‘C’送水ポンプ場のポンプ

木湖‘C’送水ポンプ場のポンプ(12台)

下水道施設でもトリシマポンプが使われているそうですね。

はい。トイレや水道水を使用した後の汚水処理業務を担当しているのが、香港政府下水道局(DSD:Drainage Service Department)です。下水を処理場で処理をして海に返すポンプ場があり、ここでもトリシマポンプが使われています。

また香港電力のラマ島にある発電所には冷却水ポンプを納めています。発電所で発電のためのタービンを回したら、熱をとるための冷却水が必要になります。冷却水ポンプは冷却用の海水を取水するために使用されています。その他にも高層ビル向けの給水ポンプなども納入しています。

香港で事業を展開されることになったきっかけは…?

1990年代以前から、ポンプだけを収めるポンプサプライヤーとしての引き合いはありました。ただトリシマポンプは日本製の為、品質はいいけれどコストが高く、なかなか受注することができませんでした。それならポンプを単体で納めるサプライヤーとしてではなく、ポンプ場の建設を担うコントラクター(建設者)として入札に参加しようと考えました。でも当時、弊社は入札に参加するためのライセンスを持っていませんでした。そこでライセンスを持っている三菱商事さんとタッグを組んで、WSDの「木湖‘C’送水ポンプ場」を建設するプロジェクトの入札に参加し、1992年に受注しました。このプロジェクトではポンプ場を建設し、トリシマポンプ12台を納入しました。これが香港での事業のスタートになりました。

1995年の香港現地法人の立ち上げにつながるわけですね。

はい。1995年にはDSD向けにSSDSプロジェクトの一期工事のポンプ場を受注しました。これは香港のほぼ全域の下水を、地下トンネルで集めて集中処理するプロジェクトで、大小4つのポンプ場と関連機器を、6年かけて納入しました。主ポンプ8台、3機種のポンプ計17台の他、4ヵ所あるポンプ場を一括してコントロールするシステムも納入しました。酉島製作所としても大きなプロジェクトで、これもひとつの転機になりました。

設計図を前に真剣に議論するエンジニアの姿

 

オフィスでは、設計図を前に真剣に議論するエンジニアの姿も

 

 

どういう点が強みとなっているのですか。

主に3点あると思います。まずポンプを大阪の高槻工場で作っており品質がいいこと。日本製だとどうしてもコストが高くなるので、他社メーカーは中国、ベトナム、インドなど海外生産に切り替えていますが、弊社の大型ポンプは基本的に日本製です。価格よりも品質を重視する姿勢をお客様に評価してもらっています。

2つ目は、ローカルの優秀なエンジニアを育て、彼らに任せていること。それがここまでいろいろなポンプを納めることができた理由だと思っています。現在香港オフィスは社長と私を含めてスタッフは18人。このうちローカルのエンジニアは11人で、そのうち8人が10年以上務めています。ポンプ場の建設などは、ひとつのプロジェクトに2~3年、大きいプロジェクトでしたら4~5年かかるので、いくつかのプロジェクトを経験しながら、ノウハウや知識を積み上げていくことが大事になります。

3つ目は、香港に根付いたオフィスですので、お客様からの問い合わせに素早く対応できること。新規のポンプ場を作りたいといった技術相談も受けますし、既設のポンプに不具合
があるという連絡を受けてすぐに現場に駆けつけることもあります。

ポンプ単体の納入からポンプ場の建設まで請け負えることも強みですね。

はい。ポンプ場を建設するような案件では、競合他社のコントラクターからもトリシマポンプの引き合いが来ます。どのコントラクターが受注しても最終的には、ポンプは弊社が納めることになります。また弊社では、ポンプ場のエンジニアリングも経験し、香港政府向けの仕様もよく分かっているので、より良い提案ができます。

ポンプの寿命は約30年で、これから寿命を迎えたポンプの取替えも増えてきます。既設の施設に導入されている大型ポンプのメーカーで、今も現地に拠点を持ち、積極的にポンプを売っているのは弊社だけです。他社のポンプの取替え案件の場合は、詳細な仕様や寸法が分からないという大変さはありますが、更新の機会を捉えて、他社のポンプもすべてトリシマポンプに取り替えると社長は宣言しています(笑)。

日系の大型ポンプメーカーで、積極的に香港展開をしているのは貴社だけと伺いました。

香港人は結束が固いので、特に上下水の公共事業への参入は難しいと考えられていました。そのため、日本の他社メーカーは香港で力を入れて事業を展開してきませんでした。

弊社では「いや、香港はいける」と判断し香港市場に参入。現地法人を設立するときは、当時、プロジェクトマネージャーだった香港の方を社長に据えました。社長は、これまでの実績などでお客様と信頼を築いてきました。それも大きいと思います。

ラマ島の発電所。中央の赤い機械が海から冷却用の水をくみ上げている冷却水ポンプ

ラマ島の発電所。中央の赤い機械が海から冷却用の水をくみ上げている冷却水ポンプ

新しい事業もスタートされているそうですね。

2012年度にWSD向けに小水力発電用の水車を納めました。小水力発電は水車を使って捨てられる水のエネルギーを利用して発電し、発電した電気を施設内で使うものです。水車の形はポンプと一緒で、水の流れが逆になります。ポンプはモーターを回転させて、インペラ(羽根車)を回して圧力を作りますが、水車は水を流してプロペラ(羽根車)を回し、発電機を回転させて発電します。再生可能エネルギーに対する興味が高まっており、香港内でも水車の引き合いが増えています。

DSDからも昨年度末に水車を受注しており、現在詳細仕様を固めているところです。

今後の目標はありますか。

2020年の稼動を目指して、WSDが将軍澳(ジョングヮンオウ)に「海水淡水化プラント」を作る計画があります。海水淡水化プラントでは、海水に圧力をかけて膜に通して真水にします。この圧力をかけるためにポンプが必要になります。これから入札が始まる案件ですが、弊社の機器を納入したいと考えています。元々弊社のポンプは、海水淡水化プラント向けのポンプに強みを持っており、その技術力を生かせば十分戦えると考えています。

また、2014年1月にはDSD向けに長期メンテナンスサービス契約を受注しました。新界地区にある220ヶ所のポンプ場、下水処理場の既設の機器の点検、修理、オーバーホール、試運転等を3ヶ年間で実施するというものです。今後はメンテナンス事業も大きな柱になってくると思います。

酉島泵香港有限公司
住所:UnitA,21/F.,Tower A,Billion Centre,
1 Wang Kwong Rd.,Kowloon Bay
電話:(852)2795-1838

 

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