目から鱗の中国法律事情 Vol.74

2022/12/07

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

中国の新法「インターネット詐欺防止法」その2

前回は、2022年9月2日に公布された中国の新法「インターネット詐欺防止法(中国語原文は「反電信網絡詐騙法」)」が制定された経緯を見ました(主席令第119号。2022年12月1日施行)。
今回は、この法律の重要ポイントを見ていきましょう。

インターネット詐欺とは
インターネット詐欺防止法である以上、まず重要になってくるのは「インターネット詐欺」をどのように定義づけているかです。
インターネット詐欺防止法では、インターネット詐欺(電信網絡詐騙)を、不法な占有を目的として、電気通信ネットワーク技術を用いて、遠隔、非接触等の手段により、公私の財産を詐取する行為をいうとしています(第2条)。ここで驚くべきことは、「不法な占有」、「財物を詐取」と規定していることです。このような表現では、現実に存在する物体としての財物を不法に自身が占有したときのみにこの法律が適用されるように読み取れます。しかし、インターネット詐欺で問題になるのは実在する財物ではなく、電子マネーのデータなどの方ではないでしょうか。前回もインターネット詐欺防止法について「銀行によるネットバンクの取扱いに強い規制が入るということになりそうです」と述べました。ネットバンキングなどを通じて「現金」などの詐取を対象とし、電子マネーなどは含まれないという発想はこの条文にも表れています。
もちろん、電子マネーデータの取得も「財物」であり「不法な占有」の対象となるという解釈が示される可能性はあります。しかし、条文の文言を丁寧に読むとそのようにはなっていないということです。24376336_l

インターネット詐欺防止法の適用範囲
そして、インターネット詐欺防止法の適用範囲は、まず中国国内で行われるインターネット詐欺行為、さらには中国公民が国外で行うインターネット詐欺行為も対象となります。そして、中国国内でインターネット詐欺を行う外国の組織または個人、中国国内でインターネット詐欺行為を行うために他者に製品やサービスを提供した外国の組織または個人も対象となるとしています(第3条)。ここでも驚くべきことは「中国公民が国外で行うインターネット詐欺行為」も対象となるとしていることです。「中国公民が国外で『中国国内に対して』行うインターネット詐欺行為」ではありません。
法律は通常、その行為を行った国の法律やその行為の対象となった国の法律が適用となります。そのため、中国公民が単に国外でインターネット詐欺を行った場合(中国に対して行っていない場合も含む!)にも、一律にインターネット詐欺防止法の対象となることは非常に奇異なことと言えます。(続く)


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら講演活動などもしている。韓国・檀国大学校日本研究所 海外研究諮問委員や非認可の市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。FM西東京 84.2MHz日曜20時~の「Future×Link Radio Access」で毎月1、2週目にラジオパーソナリティもしている。Twitterは@koji_xiaozhi

P30 Lawyer_731

Pocket
LINEで送る