目から鱗の中国法律事情 Vol.72

2022/10/12

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

中国で新制定された「先物およびデリバティブ法」 その5

本シリーズでは、本年8月1日から施行されている中国の「先物およびデリバティブ法」(中国語原文は「期貨和衍生品法」)について見てきました。新法ということもあり、全条文が新しい規定なのですが、全てを見ると際限がないので、いくつか規定をピックアップして見てきました。今回は本シリーズの最終回です。

先物取引者や先物取引機構に関する規制
「先物およびデリバティブ法」第49条は、先物取引を行う者について規定しています。第49条第1項では、先物取引者(先物取引を行う者)とは、「先物およびデリバティブ法」に基づいて、先物取引を行って、取引結果を受け入れる自然人、法人もしくは法人以外の組織としています。中国では、法人格のない団体も法人と同様に活動できますが、ここでもそのように規定されています。
そして、先物取引機構は、先物取引者に対してサービスを提供する際は、先物取引者の基本的状況、財産状況、金融資産の状況、取引に関する知識および経験、専門的能力などの関連情報を十分に理解し、サービスの重要な内容につき確実に説明をし、取引のリスクを十分に伝えて、取引者に上述の状況に適合するサービスを提供しなければならないと規定されています(第50条第1項)。さらに、「先物取引者は、先物取引に参加およびサービスを受ける際には、先物経営機構が明示的に要求した第50条第1項の内容について、真実の情報を提供しなければならない。情報の提供を拒絶もしくは情報の要求に対して提供をしない場合、先物経営機構はその結果について告知し、併せて規定に従いサービスの提供を拒絶しなければならない」とも規定されています(第50条第2項)。
このように、先物取引は、取引対象の時価の大幅な変動によって、大きく利益を上げることも、大きく損をすることもあるため、取引を行う際にはリスクの説明と自身の知識や財産状況についての詳しい説明をする必要があります。そして、この説明ができない場合、先物取引に参加できないわけです。
そして、先物取引機構がこの規定に反した場合、それによって得た所得の10倍以下の罰金が科され(ただし、得た所得が50万元より低い場合は、50万円以上500万元以下の罰金)、情状が特に悪い場合は、営業許可が取り消されることになります(第135条)。スクリーンショット (1995)

世界最大規模を誇る中国の先物取引市場に対し、ついに法的規制ができたというのは世界の投資家が注目している点です。投資をしていない人(や会社)も今の中国はこうなっているんだというくらいは抑えておきましょう。


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら講演活動などもしている。韓国・檀国大学校日本研究所 海外研究諮問委員や非認可の市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。FM西東京 84.2MHz日曜20時~の「Future×Link Radio Access」で毎月1、2週目にラジオパーソナリティもしている。Twitterは@koji_xiaozhi

P30 Lawyer_731

 

 

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