アナシス人事労務誌上相談 Vol.55

2022/07/13

M1

「福利厚生の見直しを考えるには」

 

問い:福利厚生の調査票をもらったので、見直しを考えることにしました。どのように考えていくものなのでしょうか。
黒崎:香港の混乱やコロナが始まる前、採用力の向上やリテンション対策として、休日・休暇や手当などを含めた福利厚生の改定が話題にあがることがよくありました。その後の度重なる緊急課題への対応の中、実効性や費用対効果が見えにくい福利厚生は置いておかれていた感があります。しかし利益が出ている企業も少なくなく、また働き方改革やコロナ対応などでも、福利厚生は再び注目すべき時ではないかと、弊社でも調査を始めたのです。
福利厚生と一言でいいますが、実は人によってイメージするものが違ってきます。従業員が安全に働き続けられるようにその健康や生活の豊かさを向上させるために行う諸施策を総称して福利厚生と呼びます。各種手当も含まれますが、主には賃金以外のものだと考えてください。
一昔前の日系企業の福利厚生は、「外資企業」であり、良いレベルと言われていました。正直なところ今はそれほど良いというイメージはないでしょう。特に中国では欧米企業・民営企業に差をつけられている感じがあります。
その課題のひとつに「世間相場」に合わせるというこれまでの傾向があります。「世間と比べて明らかに落ちるところのみを是正する」ぐらいに落ち着いてしまうことがあるのです。大事なことなのですがそのやり方では、本来の目的であった採用力の向上やリテンション対策にはなりにくいでしょう。
私は限りある原資を有効に使うという「エッジのたった福利厚生」の推奨派です。一点豪華主義と揶揄されるかも知れませんが、そもそも福利厚生は企業の人に対する思いを伝えるものなのです。たとえば弊社には3年勤続で2週間のリフレッシュ休暇が取得できる制度があります。同じ仕事をしていると3年もすれば飽きます。人生の節目節目を作り、ステップアップを含めて考えてもらうための時間=リフレッシュ休暇。こういうメッセージを込めているわけです。
あるいはアニバーサリー休暇というものもあります。既に誕生日休暇は導入済みの弊社ですが、アニバーサリーはどんなお祝いでも可とするもの。たとえばパートナーの誕生日でもいいし、親の結婚記念日でもいい。家族やパートナーは、従業員が気持ちよく働くための重要なステークホルダー。その人達への日頃の感謝を込めました。皆さんがいてくれているお陰で、弊社は仕事が動いているのですと。
しかし、思いは簡単には伝わりません。制度はすぐ形骸化します。何度でも繰り返し語っていく。たった一日の休みなのに、意味と意図を込める。そうしたやり方が一点豪華主義には必要です。
カフェテリアプランも可能性はあります。それは企業が支援する金額を予め決めておき、複数の選択肢を従業員に示して、彼らが自由にそれを使っていくもの。狭義ではレジャー施設などの選択肢から、広くは住宅や休日まで含めた選択肢を作る企業もあります。モチベーションは人それぞれなので、自由度の高い選択肢の多さは魅力的ではあります。
福利厚生を思い切ってほとんどやめてしまって、その原資を成果給・変動給にあてるやり方もあるでしょう。属性や人それぞれの背景に関係なく、求める責任への成果で判断する割り切った考え方。言い出したらきりがないのが人の事情なので、一切見ない。こういう考え方もありです。全ては企業の人事ポリシー次第です。
しかしそもそも福利厚生はそんなにインパクトがあって魅力的なものなのか? 残念ながらこれまでの福利厚生は「衛生要因」と言って、満たすだけでは不満は解消されるが満足感は得られないものでした。
原点に戻ると、求める人物像・組織像を明確にした上で、その人達が望むことでかつ企業の思いを伝えるものが制度になっていることが求められます。
さらに言えば福利厚生の整備で、不満が多少解消されて、少しは従業員満足度の向上につながったとしても、その満足がそのまま業績の向上につながるわけでは無いことにも注意が必要です。そもそもの戦略に加えて、やはり「動機付け要因」と呼ばれる仕事そのものに対する満足度や、人間関係への満足度なども必要です。
最後に福利厚生にも下方硬直性があることに注意が必要です。一度設定した規則を将来廃止する場合、不利益変更として訴えてくる可能性もあります。既得権益として従業員が認識しますので、慎重な判断が必要です。それでも「人に対する思い」を伝える手段として、トータルリワードの中の福利厚生を考えてみてください。


●のべ4,600名を超えるご参加者を得たアナシスの各種ウェビナー講座。
雇用条例ガイドブック講座など、新規赴任者の方向けのものもございます。
福利厚生調査も実施中。お問い合わせ等はアナシス香港の牧野までご連絡ください。 (hkinfo@anaxis-asia.com

アナシス Anaxis

 


Anaxislogo

会員制の人事労務コンサルティングファームです。地場に根ざす、経験と実績のあるコンサルタントが対応いたします。香港・深圳・広州・上海でトータルサポートいたしております。詳しくはアナシス香港の牧野までご連絡ください。

住所 : Suite 8, 12/F., Tower 2, China Hong Kong City, 33 Canton Rd., TST
電話 : (852)2180-2005
メール: hkinfo@anaxis-asia.com
ウェブ:www.anaxis-asia.com

Pocket
LINEで送る