目から鱗の中国法律事情 Vol.69

2022/07/06

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

中国で新制定された「先物およびデリバティブ法」 その2

前回は、2022年8月1日に施行される予定の中国の「先物およびデリバティブ法」(中国語原文は「期貨和衍生品法」)の用語の一部について見ました。今回は、その続きです。

先物およびデリバティブとは?(続き)
前回は、「先物およびデリバティブ法」における「先物取引[期貨交易]」と「デリバティブ取引[衍生品交易]」について見ました。しかし、「先物およびデリバティブ法」上の定義規定はこれだけではありません。前回見た定義の続きを見てみましょう。
「先物契約[期貨合約]」とは、先物取引所で、統一的に定められた基準によって、将来、特定の時期および場所で一定量の目的物を取引することを約束する契約で(第3条第3項)、「オプション契約[期権合約]」とは、買い手が将来特定の時期に特定の価格で約束した目的物(先物契約を含む)を売買する権利を有することを約束する標準もしくは非標準の契約のことをいいます(第3条第4項)。さらに、「スワップ契約[互換合約]」とは、将来、特定の時間内に特定の目的物を相互交換することを約束する金融契約で(第3条第5項)、「先渡契約[遠期合約]」とは、
先物契約以外の、将来特定の時期および地点で特定の目的物を一定数提供することを約束する金融契約をいいます(第3条第6項)。
しかし、このような説明をされても、何を言っているのかよく分かりません。そこで、以下、嚙み砕いて説明してみましょう。

スクリーンショット (1517)

先物かオプションかどちらが得?
「先物契約」とは、あらかじめ決められた日に、決められた価格で特定の商品を売買する契約のことをいいます。例えば、Aという商品があったとして、それが現在時価100円だったとしましょう。この商品を2ヶ月後に100円で購入する約束をする契約をすることが先物契約です。そして、現実にはその2ヶ月後にはその商品Aの時価が120円になっていたら買い手は得をするし、Aの時価が90円になっていたら買い手は損をするのです。ところで、「先物およびデリバティブ法」では、「先物契約」を「先物取引所で、統一的に定められた基準によって~」と定義づけています。つまり、「先物およびデリバティブ法」上の、「先物契約」とは、「あらかじめ決められた日に、決められた価格で特定の商品を売買する契約」のうち、先物取引所で行われるものをいいます。
これに対して、「オプション契約」とは、あらかじめ決められた日に、決められた価格で特定の商品を売買する「権利」を有することを約束する契約をいいます。つまり、先物契約とは異なり、必ず売買する必要はなく、売買する権利を放棄することもできるわけです。そのため、オプション取引の場合、先の商品の時価が思うように上がらなかったり、下がった場合には購入しなくていいことになります。とはいっても、一方的に売買の権利を持つ人が得するわけではありません。当然、権利取得のための権利料を支払う必要があるので、権利放棄すれば完全に損失がないというわけではありません。(続く)


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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