目から鱗の中国法律事情 Vol.61
中国の法律を解り易く解説。
法律を知れば見えて来るこの国のコト。
中国の著作権法改正 その3
今シリーズでは、2020年11月11日の中国著作権法の改正(2021年6月1日施行)について見てきています。今回もその続きです。
「視聴覚作品」
前回までで、中国著作権法第3条の改正点について見てきました。しかし、中国著作権法第3条では、まだ(六)が改正されています。旧法では「映画作品および映画の制作に類する方法により創作された作品」で、新法では「視聴覚作品」と規定されました。この改正理由については、以下のように言われています。「技術の進歩により、これまでの規定では新しく生じた事象に対して対応できないため」。
これは要するに、これまで映画に類する著作物と言えば、プロフェッショナルがスタジオなどで制作するものであり、相当の設備を準備する必要があり、制作が困難だったわけですが、優酷やビリビリ動画などに個人が動画(映画に類すると言える可能性がある)をアップロードする時代になったということです。このような技術の進化に伴い、「映画作品および映画の制作に類する方法により創作された作品」という相当の設備を準備して制作する動画のみを前提とした表現で示すことが適切ではなくなったということです。そのため、中国著作権法第3条(六)の旧法では「映画作品および映画の制作に類する方法により創作された作品」という規定は「視聴覚作品」に変更されたのです。
実演家の権利
本シリーズ第1回で述べた通り、中国著作権法改正の理由は、実演家の権利保障をする「視聴覚的実演に関する北京条約」という著作権に関する国際条約に対応するためのものです。このため、改正点は多くありますが、特に実演家の権利を保障する条文が大きな目玉となっています。この実演家の権利保障は、改正中国著作権法第40条に規定されました。
中国著作権法第40条
演者が所属する実演事業者の実演業務遂行のために行う実演は、職務実演とし、演者は身分を表示する権利と、演出イメージが歪曲されないよう保護を受ける権利を有し、その他の権利の帰属は、当事者間の取り決めによる。当事者間に取り決めがない、または取り決めが不明確な場合には、職務実演の権利は実演事業者が享有するものとする。
職務実演の権利を演者が享有する場合、実演事業者はその業務範囲内で当該実演を無償で使用することができる。
(続く)
〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!