尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.54

2021/10/13

使用者による勤務部署と月額賃金の調整権(下)

(前号から続き)
⑵実務上の留意点

②労働契約または社内規則制度で約定していない場合

 労働契約または社内規則制度において、使用者による勤務部署及び月額賃金の調整権を定めていない場合は、「使用者による配置転換権と解除権」の関連規定により処理することになります。

 例えば、労働者の元の勤務部署の規模縮小など、使用者の生産経営上の必要性に起因する事由により、労働者に対し他の部署への配置転換を求めたが、労働者がこれを拒否する場合、労働契約法第40条第3号により、労使双方間で勤務部署の調整及び労働条件の変更などについて協議を経ても合意に達することができないときは、使用者は労働契約の予告解除を行うことができます。

 労働者が出勤拒否などの方法により、使用者の要求または提案に強く反発している場合は、使用者の社内規則制度または労働契約における「無断欠勤」などに関する規定に基づいて、使用者は一方的に労働契約を解除することができます。③労働者から配置転換の申請があった場合労働者本人から使用者に対し勤務部署の調整に関する申請があった場合、使用者は労働契約の変更に関する規定(労働契約法第35条)により、勤務部署(業務内容)及び労働報酬などの変更について、労使双方間で書面の合意を得ることが望まれます。

④使用者の証明責任
上記①〜③のいずれの場合においても、労働紛争が生じた際、使用者には以下に掲げる関連事項の証明責任が課されますので特に注意をする必要があります。
ⅰ)労働者の業務不適任または業務従事不可の評価基準及び評価方法などの事前告知
ⅱ)前記ⅰ)の評価基準、評価方法及び評価結果の合法性と合理性
ⅲ)配置転換決定は確実に生産経営上の必要性に起因していること
ⅳ)配置転換後の労働報酬などの労働条件の合理性
ⅴ)労働者との間で協議を重ねてきたことなど

 

⑶地方規定

 広東省の司法実務においては、下記(小文字)のとおり使用者による勤務部署の調整などについて特別な審理基準を設けていた経緯がありますので、現地法人所在地の関連規定などにも留意すべきでしょう。

 使用者による労働者の勤務部署の調整が、以下に掲げる事由に合致している場合、使用者が雇用に関する自主権を合法に行使したものと見なし、労働者が、使用者が無断で自分の勤務部署を調整したことを理由に労働契約の解除を要求し、かつ使用者に対し経済補償金を支払うよう請求した場合、これを支持しない。

(1)労働者の勤務部署の調整は使用者の生産経営に必要である
(2)勤務部署を調整した後、労働者の賃金水準は元の勤務部署と基本的に同じである
(3)(勤務部署の調整は)侮辱性と懲罰性を有してない
(4)法律法規に違反するその他の事由がない使用者が労働者の勤務部署を調整し、かつ上述の事由がなく、労働者が 1 年を超過しても異議を唱えず、その後になって労働契約法第38条第1項第1号の規定をもって労働契約の解除を要求し、かつ使用者に対し経済補償金を支払うよう請求した場合、これを支持しない。

 上記に掲げた事由以外に、労働仲裁と司法実務上新たに考慮すべき合理性の判断要素として、「労働者が調整後の勤務部署に適任することができるか?」や「勤務場所の調整によって労働者に不便をもたらした場合、使用者はこれに必要な協力又は補償措置を取ったか?」なども取り上げられているため、使用者はこれらの点にも留意すべきでしょう。また、労働者が自ら辞職するよう報復、圧力を加えるなど、使用者が権利を濫用することは許されません。


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尹秀鍾 Yin Xiuzhong尹秀鍾 Yin Xiuzhong
卓建律師事務所深圳本部 パートナー弁護士、法学博士 (慶應義塾大学)

【主な業務領域】
外商投資、移転/撤退、知財侵害、紛争解決

 

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