PPWビジネス通信 × アナシス Vol.45

2021/09/22

M1

人事労務のアナシスによる誌上相談会

 

 「「香港で『心理的安全性』は必要ですか?」

 

 

問い:最近よく聞く「心理的安全性」とはなんですか? 香港や華南に必要ですか?

黒崎:2015年にGoogleが「生産性の高いチームに共通しているのは心理的安全性の高さだ」と発表して大いに注目を浴びたのがこの「心理的安全性」ですね。Googleのホームページを見ると「対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり『無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ』と信じられるかどうかを意味する」と書いてあります。弊社は「地位や経験に関わらず、誰もが建設的な意見を率直に言え、行動できる状態・程度」と定義しています。

 「心理的安全性」という言葉は、日本では一昨年ぐらいからよく目につくようになりました。古くはエドガー・シャインとウォーレン・ベニスという組織マネジメントの大御所である教授達が提唱し、その後このテーマの現在のリーダーと言えるエイミー・エドモンドソン教授が研究を進め、今年2月にエドモンドソン教授の『恐れのない組織』が日本語で出版され、売れているようです。

 「心理的安全性」という言葉は、各団体の調査でデータが異なるのですが、明らかに認知度が上がってきています。先日このテーマで香港でのウェビナーを実施した時は、4割の方が初めてこのコンセプトを知るという状況でした。

 正直なところ言葉の響きから来るネガティブさがあって、私自身も「そんなぬるま湯でマネジメントが出来るわけがない」などという誤解をしていた時期があります。その誤解の多くはこうです。

・好きなことが言える(わけではない)
・提案したらいつも取り上げてくれる(わけではない)
・わがままにふるまえる(わけではない)
・心理的安全性がなければ業績はあがらない(わけではない)
など

 特に香港・華南では、思慮の足りない思いつきの発言などに上司側が辟易しているケースもあり、「心理的安全性なんて」などという否定的意見も見られます。確かにそんな発言をいちいち許している余裕はないのかもしれません。プロのチームに必要なのが心理的安全性であって、アマチュアの集団には必要がないのかも、と。

 しかしながら人がプロに育つ課程において、自分の考えを言える環境かどうかはその人の成長に大いに関係してくるでしょう。発言し、そしてそれを実行し、成功か失敗かを重ねる。そのプロセスで人が経験し、自分の頭で考え育つ。この為にも、まだ発展途上中の人達にも「言える」環境を用意することは無駄ではありません。私はそれを「見える化」に対して、「言える化」と呼んできました。

 この「言える化」に必要なことはいくつもあります。特に重要なのはリーダーの日常の言動。いつも否定から入るリーダーなど、報連相しにくい上司は論外となります。対人レベルでの「言える化」、チームレベルや組織レベルでの「言える化」とその全てに関わるのがリーダーの存在です。先ほどのアマチュアな部下の不用意な発言に対してなどに、不用意な返答をしようものなら、次からはどんな良いアイデアがあったとしてもあがってこないでしょう。リーダーにはまず、適切なフィードバックスキルの向上が求められるのです。そして多数の意見がでてくるようになれば、それを合理的に意志決定するスキルも必要となります。会議を効果的に運営するファシリテーションスキルも必要でしょう。そうした条件がそろってなお、心理的安全性を担保するのはなかなか困難です。再度弊社の定義に戻れば、「誰もが建設的な意見を率直に言え」の「建設的な意見」であることもキーなので、部下達がそうした意見を作れるスキルの開発も必要です。それでも「心理的安全性」はパフォーマンスの向上と成長と変革のためには香港でも中国でも必要だと考えています。

 ところが経営トップ達にはこう思う人がいます。「みんな私には意見を言ってくれる」「私は言いやすいボスのはずだ」等々、自分の存在を肯定的に捉えているケース。「自分は世界を正しく客観的に認識していると考える傾向」のことをナイーブ・リアリティと言いますが、こういう「謙虚さ」が欠けるときには「心理的安全性」は担保されません。「あなたたちは何も分かっていない」というムードが漂い、この上司は「最初から正解を持っている」と思われ、自由で創造的な意見が出てくる可能性が下がるのです。

 当地ではさらに「言っても無駄」だという歴史を引きずる企業もあります。以前提案をしたがすべて却下されたか、駐在員の異動で全てが変わってしまったという現地スタッフにとっての苦い経験。あるいはそれを言い訳にした思考停止。

 そして「辞められたら困るから」という理由での、上司から部下への「心理的安全性」の低さ、「言えなさ」もあります。

 一度組織の皆で議論すべきコンテンツだと思います。


●この1年でのべ2,000名以上のご参加者を得たアナシスの各種ウェビナー講座。
「人材育成」「報連相」など充実したコース内容も弊社までお問い合わせ下さい。

●11月には講座「心理的安全性を高める達人」が開講されます。

お問い合わせ等はアナシス香港の牧野までご連絡ください。 (hkinfo@anaxis-asia.com

 

アナシス Anaxis

 


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