目から鱗の中国法律事情 Vol.57

2021/07/07

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

中国における保証契約(中国民法第681条~第702条)その4

 今シリーズでは、2021年1月1日から施行されている中国民法典における保証契約を見ています。前回は、一般的な保証契約の際に、債権者が保証期間内に本来の債務者に対して訴訟や仲裁の申立てを行わなかった場合には、保証人は保証の責任を負わなくなり(中国民法典第693条第1項)、連帯責任による保証契約の場合、債権者が保障期間内に保証人に保証責任を負うよう請求しない場合にも保証人は保証責任を負わなくなります(中国民法典第693条第2項)と述べて終わりました。

 これはちょっと意味が複雑なので、今回丁寧に見ていきましょう。

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  債権者が保障期間内に本来の債務者に対して訴訟や仲裁の申立てを行う

 保証契約というのは、前提として債権者Aさんと債務者Bさんがいて、AさんはBさんに金銭などを請求できるということになっています。しかし、Bさんの財力では本当に金銭を支払ってもらえるのかAさんは不安なので、保証人Cさんと保証契約を締結して、Bさんが支払えなかったときにはCさんに支払ってもらうとするわけです。そして、AさんとCさんの間の保証契約の期間は決まっています。

 そのため、保証契約の期間が経過しても、BさんがAさんに支払いをしていなかった場合、Cさんは「もうAさんは金銭の請求をする気がないんだな」と思うのが普通ではないでしょうか。しかし、Aさんは保証期間終了後にCさんに請求をしてきたら、Cさんは「保証期間も経過したのに、まだ請求されるのか。もっと早く言ってくれなければ、こちらにも金銭の使い道の予定がある」と文句を言うでしょう。

 そのため、Aさんは、Bさんから支払いがないにしても、保証期間内に積極的にBさんから支払いを求める意思表示(=Bさんに対する訴訟や仲裁の申立て)を見せなければ保証人であるCさんに保証契約に基づく請求はできないことにしたのです。これが中国民法典第693条第1項の意味です。

 

連帯保証で、債権者が保障期間内に保証人に保証責任を負うよう請求しない場合

 連帯責任による保証契約とは、債務者と保証人どちらにも直ちに請求ができる保証契約をいいます。この場合も同様です。債権者Aさんは、債務者Bさんに金銭などを請求できる権利を持っていて、保証人CさんはBさんの支払いについて連帯責任による保証契約をAさんと締結したとしましょう。この場合に、保証期間が過ぎた後、AさんがCさんに「保証契約に基づき支払いをしろ」と言っても、Cさんは「言うのが遅すぎる。保証期間内に言ってください」と言うでしょう。このように、保証期間内に保証人への請求をしなければ連帯責任による保証契約であったとしても保証人は支払う必要はないというのが、中国民法典第693条第2項の意味です。(続く)

 


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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