目から鱗の中国法律事情 Vol.51

2021/01/06

中国の法律を解り易く解説。
法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

 前回まででは、中国民法が施行されることに合わせて中国民法における所有権を見直しました。今回からは、中国民法における詐害行為取消権を見直してみましょう。まずは、中国民法のおさらいからです。

 

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中国民法とは

 中国ではこれまで民法通則(1986年)、物権法(2007年)、担保法(1995年)、契約法(中国語原文は「合同法」)(1999年)、不法行為責任法(中国語原文は「侵権責任法」)(2009年)などの単行法規を寄せ集めて「民法的な内容の法律」を構成してきました。しかし、これらの単行法規には、相互矛盾する部分もあり、各単行法規を解体して統一の「民法」典の制定を求める声がありました。

 そして、2020年5月28日に全国人民代表大会でついに「民法」が可決・同日公布され、2021年1月1日から施行されました。そして、2021年1月1日にはこれまでの民法的な内容を構成していた各単行法規も全て廃止となりました。

 

詐害行為取消権とは

 もし、他人であるAさんに対して債権(金銭などを要求する権利)を持っているにもかかわらず、Aさんがあなたへの金銭債権の支払いを妨害するために、所有している唯一の財産を無償でさらなる他者へ譲渡してしまったらどう思うでしょうか?このような、「違法」とまでは言えないが、他者の権利を妨害する行為を日本語では「詐害行為(さがいこうい)」といいます。日本でも、このような他者の権利を妨害する行為は、一定の要件を満たして裁判所に申し立てれば、取り消すことができます(あくまで「違法ではない行為」を取り消すので、裁判所の判断が必要です(日本の民法第424条~第426条))。

 それでは、中国では詐害行為取消権はどのようになっているのでしょう。民法的な内容を構成する単行法規で民事法として効力を持っていた時代は、中国では契約法第74条~第75条に詐害行為取消権が規定されていました。そして、民法典では詐害行為取消権は第538条~第542条に規定されています。(続く)

 


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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