目から鱗の中国法律事情 Vol.49

2020/11/11

中国の法律を解り易く解説。
法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

中国民法における所有権(中国民法第240条~第270条) その3

 前回まで、中国の所有権について見てきました。今回もその続きです。(※ 以下、「民〇条」は、2021年1月1日から施行される中国民法の条文番号を、「物〇条」は、2020年12月31日まで施行される物権法の条文番号を意味します)

 

国家所有と集団所有の所有権の制限

 前回、集団所有の所有権については、「具体的に誰が利用するのかや土地に生じる費用をどのように負担するかなどはその集団のメンバーで決定する」と述べました。これは結局、その集団に、その集団所有物の管理を行わせているのみであり(むろん、そこから収益があがればその集団の利益になるのですが(町による集団所有から生じた利益については民263条、物61条))、もし集団内の誰もその土地を使いたくなかったら、誰も費用を支払えなかったらといった場合が条文上想定されていません。

 通常、所有者がその所有物を使うことがなくなった場合、売却してお金に換えるなどは通常よくある手法です。中国でも、「所有権者は自己の不動産もしくは動産を法により占有、使用、収益を得る、処分する権利を持つ」と規定しており(民240条、物39条)、この意味では中国でも自由に処分(売却)ができそうに見えます。しかし、本シリーズその1で見たように、法律により国家の所有に属すると規定されている動産や不動産の所有権は誰も得ることができないし(民242条、物41条)、集団所有の所有物に対し集団のメンバーの決定による事項の中に「所有物の処分(売却)」が規定されていません。

 このように、日本と同じような処分(売却)を含めて自由な処理ができるのが所有権であると規定しながら、国家所有や集団所有の場合には、その所有権にいろいろな制約がかかっているのです。

 

53784d40-f4da-48f1-acce-b9933ad09b54私人の所有権

 ここまで、国家所有と集団所有について見てきました。それでは、私人の所有権はどのようになっているのでしょうか。

 私人の所有権については、「私人の合法的な収入、家屋、生活用品、生産工具、原材料などの不動産および動産については所有権を共有する」と規定し(民266条、物64条)、「私人の合法的な財産は法律の保護を受け、どのような組織や個人も占拠、略奪、破壊してはならない」とも規定しています(民267条、物66条)。この規定により、私人に対しては、原則として日本と同様の所有権が認められていると考えられています。

 しかし、日本とは異なり、「合法的な」財産と表現されている点について注意が必要です。(続く)

 


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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