総合健康診断サービス「メディポート」健康コラム:人類を救うのか 昆虫食

2016/07/25

メディポート昆虫食と聞いても具体的な意味を理解しにくいのかもしれませんが、これは言葉そのまま、昆虫を食べることです。セミやコオロギなど身近な昆虫を食べるというと、嫌悪感を示す人も少なくはないでしょうし、まして昆虫を食べることで人類が救われるといわれても、耳を傾ける気にはならないかもしれません。しかし、現実の問題として、人類に必要な食糧が不足しつつあり、今後、効率の良い食糧生産に真剣に取り組まなければいけない現代において、昆虫食を考えることは決して常識から逸脱したことではないのです。今や世界人口は73億人に達しており、そのうちなんと7億人もが低栄養状態に置かれているといわれています。その一方で過食からたとえば糖尿病を発症し、さらには合併症で血液透析や失明に至ってしまう患者も少なくはありません。中国ではこの合併症が大きな問題となり、国の中枢部では国家的な危機感を抱かなければいけない事態に陥っているそうです。このように世界の食糧事情は両極端にあり、裕福であれば好きなものをいくらでも食べることができる反面、貧困層には栄養素あるいはカロリーが絶対的に不足しているというのが現状です。このまま人口が増え続けると、食糧問題は地球全体の問題として、誰もが避けて通ることができないものとなってしまうのではないでしょうか。このような背景もあり、昨今、昆虫食ということが盛んに議論され、実際に具体的な食品が研究開発されているのです。

さて、少々硬いお話になりますが、生物が餌として取り込んだもののうち、人の食料としてどの程度が利用できるのかを計算したものを、「食糧生産における2次生産性」といいます。この数字を見ると現在おこなわれている畜産や養殖といった食糧生産の生産性がいかに低いかということが理解できます。恒温動物である家畜等はたったの1~3%、魚類でも10%しかありません。それに対して昆虫は驚くことになんと40%にも達するのです。また短時間のうちに急速に成長するということもその特徴であり、ある昆虫の場合、1gの卵が400時間でおよそ2kgもの幼虫になるそうです。さらにそのたんぱく質は乾燥重量の50%にもなり、ビタミン類も豊富に含まれているのです。もちろん、いくら生産性が高く、栄養価の面でも優れているといったところで、多くの一般の人々は昆虫を食べることなど思いもよらないことです。

ところで、日本では昆虫食ブームが一部で起きていることが時として話題になります。こちらは食糧問題として重い課題を背負ったものではなく、ビールの美味しいつまみという感覚で楽しまれているものです。ちなみに日本で伝統的に食べられている昆虫でもっとも有名なものは蜂の子。巣の中で育った幼虫がさなぎになる前に捕獲し、おもに佃煮に加工されます。昔から一般に食べられてきたもので今でも長野県を中心に生産されていますが、庶民が気軽に食べるには高価になりすぎています。そのほか絹糸生産で大量に出てくるカイコのさなぎは、昔は子供達のおやつにもなっていました。食糧難の時代には子供達にとって、とても大切な栄養源として重宝されていました。

東京をはじめ日本各地にセミを食べる会(セミ会)というものがあるそうです。大人たちが昆虫網を手にして公園に集まり、うるさく鳴いているセミを大量に捕獲することから会は始まります。セミ捕りに興じる大人たちの目は真剣。事情を知らない人からはさぞ異様な光景に見えることでしょう。そうやって捕獲したセミは唐揚げにして、ビールのつまみとしてあっという間にメンバーのお腹に収まってしまいます。セミ会には若い女性の参加も多く、さすがに初めは恐々としているようです。ただ、いったん口にするやセミの姿を忘れてしまったかのごとくその味に魅せられてしまうそうです。ちなみにこのセミの味はナッツの香りがするとかエビのから揚げのようだとか、人によって表現は様々ですが、誰もが美味しいと感じることは確かなようです。

昆虫食はセミに限ることなく、コオロギやイナゴあるいは蛾の幼虫など種類は様々。世界中の多くの国で、細かく分類すると1400種類もの昆虫が食べられています。もちろんどんなに美味しいといわれても食べる気にはならないであろうことは理解できますが、もしかすると食べず嫌いなだけなのかもしれません。我々が普段食べているエビやカニは、高級食材としても扱われるものです。しかし、初めてこれらを目にしたら、グロテスクな姿に怖気てしまって、美味しそうだと思うことなどありえないのではないでしょうか。昆虫も同じです。一度その味を知ってしまったら、その魅力に取りつかれてしまうのかもしれません。近い将来、セミの鳴き声が聞こえないなと思ったら、実は皆に食べられてしまっていたということが起きるかもしれません。

世界人口の膨張はこれからもしばらくは続き、食糧増産はますます大きな課題となります。現在水産資源をめぐっては国際問題にまで発展するほどです。食糧問題を考えるときに、昆虫食という選択肢について思考を膨らませることも大切です。食わず嫌いになっていてはいけないのかもしれません。
メディポートINFO

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