セントラル「Sagrantino(サグランティーノ)」オーナーシェフが語るイタリアンに目覚めた訳と不揃のボロネーゼ(後編)

2014/07/24

ラスベガスのイタリアンレストランの修行時代に、安田さん自身の転機が訪れたのはある日の事。ベネチアンかどこかの大きなホテルのレストランで働いていたアメリカ人シェフが入店した時だった。『スーシェフ』として入ったそのアメリカ人のシェフは、「野菜や材料を刻んだりするのは、俺様がやる仕事じゃない!」と言い出したのだ。チームワークを大切にするトップシェフのアントニオはそれを聞いて激怒し、「お前なんて、いらん!辞めてしまえ!明日からタッカァ~シ(安田さんの名前:たかし)が『スーシェフ』だ!」とみんなの前で公言してしまったのだそうだ。「ヨーロッパ人は、アメリカ人の事が嫌いだから・・・。」と謙遜する安田さんだったけど、皿洗いの時に得た信用があったからこそ、安田さんが『スーシェフ』になれた事は明白だった。

オーナー

日本人オーナシェフの安田さん。店舗にて撮影。

テーブル
それから数ヵ月後、アントニオの下で経験を積んだ安田さんは、イタリアへの航空チケットとアントニオの推薦状を手にしていた。アントニオの紹介で初めて訪れたのは、ボローニャ地区のレストラン。だが、ここでは「今は職に空きがないから、ダイアナという店に行け」と言われてしまう。その後、ボローニャ駅の直ぐ裏手にあるリストランテ・ダイアナで入店を許されるが、皿洗いの日々が続いたそうな。「でも、ここでも皿を洗いながら、料理をじっくり観察して研究していました。皿を洗っている横を料理がバンバン出て行ってましたから勉強になりました。」との事。

 

ボロネーゼ

エマリオロマーニャ地区にある家族経営のトラットリア『イルポッツォ』直伝のボロネーゼ

そして、3軒目もアントニオの紹介として入店に成功。ボローニャのすぐ隣エマリオロマーニャ地区にある家族経営のトラットリア『イルポッツォ』がそのお店。「ここでは、いろいろやらせてもらえて、鍋も振らしてもらいました。『給料は要らないから住込みで働かせてくれ!』って真剣に取り組んでいたら、本場のボロネーゼの作り方を伝授してくれたんです。」照れ臭そうに言う安田さん。でも、給料要らないって姿勢がすごい!何でも、その店のシェフ達はみんな中華包丁くらい大きな包丁を両手に持たされて牛肉の塊をミンチにしていたそうな。機械にかけてミンチにするよりも、不揃の挽肉の方がソースが良く絡む。

そうか!サグランティーノのボロネーゼの美味しさの秘密はここにあったんだ。確かに濃厚で奥深い味わいが後を引く。初めてサグランティーノのボロネーゼを食べた時に思ったのだが、自分で作る挽肉を使用したパスタや他店のパスタに比べて、サグランティーノの挽肉はちょっと不揃で尚且つ大振りだ。

「じゃあ、挽肉にするところから、仕込んでいるんですか?」包丁を二刀流で振るう仕草をする安田さんに聞いてみる。「実は、今でもボロネーゼの仕込みだけは誰にもやらせていないんです。イタリア人ってベーシックの中で違いを出していくんですよね。『俺のボロネーゼはこうだ!』とか、『俺のカルボナーラはここをこうするんだ!とかって具合にです。」

そして、決め手はソース。イルポッツォ直伝の作り方は、まず鍋にはオイルもバターも何も入れずにいきなり挽肉を投入するんだそうな。そして、カラッカラになるまで水分を飛ばして挽肉の中に旨みが凝縮するまで待つらしい。その次に野菜を入れて、ここでもまた水分を完全に飛ばして、それからようやく赤ワインを入れる。既に3工程目で手間が掛かっているのだが、ここで香りを嗅いでみて、ワインの風味が完全に無くなったのを確認してから、ようやくトマトソースを入れる。

この全工程が約2時間ほど。うわ~、これは美味しいはずだわ。

 

そんな逸話を聞いていると、エレベータの音が鳴り、2組のお客さんが同時に入店してきた。お客様の方に振り返り、僕には右手を上げて出迎えに行く安田さん。

僕はその光景を見ながら、メニューに視線を落とし、ホールスタッフにイルポッツォ直伝のパスタを注文していた。

 

 

Sagrantino Italian Restaurnatサグランティーノ
5/F., The Loop, 33 Wellington St., Central
(MTR中環D2出口/和食なお膳さん西側)
TEL:+852- 2521-5188、 +852-6335-3504( 日本語可)
営業時間:11:30~15:00/18:00~23:00(月~土)
WEB:http://www.sagrantino.com.hk/

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